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夜の影

第24章 ヒガシヤマ

【智side】

二宮カズナリには「叔父さんに会えばわかる、大丈夫」と言われたけれど。アポなしで突撃したオイラ達は明らかに歓迎されていなかった。

まず、何らかの打ち合わせ中だったらしく「HIGASHIYAMA」と表札に書かれた叔父さんの部屋には先客が居た。

サカモトさんと名乗ったその人は、オイラ達が来て一旦は帰ろうとしたようだけど、叔父さんに引き留められて結局同席している。

親切にコーヒーを出してくれた時に、テーブルの脇に膝をついた姿を見て、オイラは何だかこの人を知っているような気がした。どっかで会ったことがあるような……。

「…………」

二宮カズナリがオイラのことを紹介した後、ずっと黙ったままだった叔父さんが長い溜息を吐く。
表情が無いのに物凄く否定的な気持ちが伝わってきた。
オイラはその威圧感に、話が違うじゃないか、と緊張してしまう。

ソファセットの長い方に並んで座ったオイラ達は、まるで校長室に呼び出された問題児みたいだ。
例えるなら、向い側に居るヒガシヤマさんが校長で、サカモトさんが担任、って感じ?

もっとも校長にしては、ちょっと引くくらいに顔が整った人で、芸能人みたいだった。
サカモトさんだって、かなりのイケメンだ。

「カズ、お前は自分が何をしたのか解っていないようだな」

「え?」

小さな子供みたいに問い返した甥に返事をせず目を閉じる。額に手を当てると背もたれに頭を預け天井を向いた。
そしてまた溜息を吐く。

オイラは取りあえず黙って様子を見てたんだけど、ヒガシヤマさんの代わりみたくサカモトさんが話しかけて来る。

「大野君、だっけ?
今日は来てくれてありがとうね。
確かに今スタッフが欲しいのは山々なんだけれど。
……ごめんね、君が出来るような仕事じゃないんだ。
おウチまで送るよ。どの辺りに住んでるの?」

あっ、と思う。

『おウチはどこ? 一緒に帰ろうね』

思い出した。多分、あの人だ。
子供の頃の記憶が甦る。
やっぱりオイラ、この人知ってる。

「待ってよ、サカモトさんっ。だって弟さんが見つかったんじゃないの?」

二宮が言うと、叔父さんは額に置いた手をズラして、ゆっくりと髪をかき上げた。
目を開け自分の甥へ向けた視線が冷たい。

一々カッコイイのが嫌味な程だけど、この人は言葉よりも視線で語るタイプなのかもしれなかった。


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