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夜の影

第25章 Child missing

【智side】

遠くで聴き憶えのある音楽が流れてる。
オイラは寝呆けた頭で懐かしいメロディーを追いかけた。

なんだっけ…………。
かーちゃんと一緒に良く口ずさんでいた曲だ。
ほら、あの人の。
踊りが上手くて、歌が上手くて…………。

サビのところまで来てやっと思い出す。
ああ、マイケルじゃん。

「……ふふっ」

思い出せたのが嬉しくて目を開けると、オイラは知らない部屋の広いベッドに寝ていた。

笑った頬に違和感を感じて触れてみる。
湿布?

ああ! そう言えばビンタされた!

え? どゆこと?

もっさり起きて知らない部屋から出てみる。
カーテンは閉まっていたけれど、隙間から漏れる光で朝だと判った。

こっちかな? と歩いた先に昨日通されたリビングがあって、ヒガシヤマさんがソファに座ってる。

「……おはようございます」

目が合ったから言うと、フッと口の端だけ上げて笑った。その顔が優しく見えて驚いてしまう。

「やっと喋ったと思ったら、まだ寝呆けてるな」

笑い含みに言いながら立ち上がると、オイラに向かって手を差し伸べた。傍まで行くと湿布の上からほっぺたに触られる。

「悪かった。痛むか?」

あ、優しい人だ。

直感でそう思って、大丈夫です、って首を振った。
あんまり表情が変わらないけど、心配されてるのはちゃんと伝わって来た。

「まずシャワーを浴びてくると良い。話はそれからだ」

場所を教えてもらってシャワーを浴びた。髪を洗いながら昨日のことを思い出す。
鏡で見た自分の顔はいつもの輪郭だった。
腫れてはいないらしい。

殴られた後の記憶がないってことは、そのまま気絶しちゃったのか。かっこわる。
最近あんまり眠れてなかったこともあってよく寝た。音楽で起きたのが良かったのかもしれない。

アラームが鳴るのと同時に酷い動悸がする日が続いていたから、普通に起きられただけでも何だか安心した。

風呂から出ると、脱衣所には何故だか下着も含めて洋服が用意してある。

着ろ、ってことだよな? 
そう考えてありがたく借りた。
どれもこれも新品で、少し大きいパーカーからは新しい服の匂いがした。


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