夜の影
第1章 【Season1】Brand new
【智side】
久しぶりに事務所へ行ったら、社長に呼ばれた。
「チッ…」
思わず舌打ちが出る。
ほらな、やっぱり。
税金だか何だかの関連で、書類の記入が必要だとかって。
ずっと、うるさく催促されてて。
仕方なく寄ってみればこれだ。
「新人が入ったから、じゃないですか
バッチに御指名なんでしょ
アナタも、そろそろ逃げられないですよ」
事務所詰めのカズが、PCを見つめたまま、大して面白くもなさそうに言った。
愛想のない奴だけど、それでも、俺が緑の文字で印字された書類に一通り記入し終わったところで、コーヒーを出してくれて。
丁度喉が渇いていたし、長居するつもりはなかったのに、ついソファに座り直して煙草に火を点けてしまった。
こんなことなら、さっさと帰れば良かった。
いや、そもそも来なければ良かった。
事務所と言っても名ばかりで。
マンションの一室にお飾りのソファセットと、PCが乗ったデスクが2台あるだけ。
あとは、カズが寝起きしてる部屋と。
新人の仕込みに使う部屋。
「勘弁してくれよ
なんで俺が仕込みなんか」
「あなただって最初は仕込まれたでしょ
それも社長直々に」
うるせぇ。
嫌なことを思い出させるな。
ほんの一瞬だが本気の怒りがよぎる。
飲み下すつもりで、目を閉じてやり過ごした。
一つ大きく息をついてから、カズを睨む。
こいつは他人の視線に敏感で、PCの画面から目を離さないくせに、相手の挙動はちゃんと把握してる。
俺はお前が何を考えてるのか、解ろうとするのはもうやめたんだ。
現状に不満を言っても仕方ないだろ。
頼むから俺にからまないでくれ。
「……何ですか」
俺が見つめてるのに耐えられなくなったのか、カズがようやくこっちを見た。
「何ですか、じゃねぇよ」
何でお前が傷ついた顔をする?
「男が男に 躰 を 売 る のに、教育もくそもあるか」
俺は、なるべく平坦に聞こえるように言って、灰が落ちそうになっていたタバコを揉み消した。
久しぶりに事務所へ行ったら、社長に呼ばれた。
「チッ…」
思わず舌打ちが出る。
ほらな、やっぱり。
税金だか何だかの関連で、書類の記入が必要だとかって。
ずっと、うるさく催促されてて。
仕方なく寄ってみればこれだ。
「新人が入ったから、じゃないですか
バッチに御指名なんでしょ
アナタも、そろそろ逃げられないですよ」
事務所詰めのカズが、PCを見つめたまま、大して面白くもなさそうに言った。
愛想のない奴だけど、それでも、俺が緑の文字で印字された書類に一通り記入し終わったところで、コーヒーを出してくれて。
丁度喉が渇いていたし、長居するつもりはなかったのに、ついソファに座り直して煙草に火を点けてしまった。
こんなことなら、さっさと帰れば良かった。
いや、そもそも来なければ良かった。
事務所と言っても名ばかりで。
マンションの一室にお飾りのソファセットと、PCが乗ったデスクが2台あるだけ。
あとは、カズが寝起きしてる部屋と。
新人の仕込みに使う部屋。
「勘弁してくれよ
なんで俺が仕込みなんか」
「あなただって最初は仕込まれたでしょ
それも社長直々に」
うるせぇ。
嫌なことを思い出させるな。
ほんの一瞬だが本気の怒りがよぎる。
飲み下すつもりで、目を閉じてやり過ごした。
一つ大きく息をついてから、カズを睨む。
こいつは他人の視線に敏感で、PCの画面から目を離さないくせに、相手の挙動はちゃんと把握してる。
俺はお前が何を考えてるのか、解ろうとするのはもうやめたんだ。
現状に不満を言っても仕方ないだろ。
頼むから俺にからまないでくれ。
「……何ですか」
俺が見つめてるのに耐えられなくなったのか、カズがようやくこっちを見た。
「何ですか、じゃねぇよ」
何でお前が傷ついた顔をする?
「男が男に 躰 を 売 る のに、教育もくそもあるか」
俺は、なるべく平坦に聞こえるように言って、灰が落ちそうになっていたタバコを揉み消した。