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夜の影

第27章 眠らないカラダ

【智side】

あんまり普通に言うから、言われている意味が何一つちゃんと伝わってこなかった。

正義感、リンリカン。
世間からイツダツ。
マトモな人生は送れない。

人生の責任は取らない、って、結婚の話みたいだな、と思った。正直、大げさだなぁ、って。

オイラは童貞だから、最初が男相手ってのはちょっと大分アレだな、とは思ったけどさ。
取りあえず妊娠の心配は無いし。
我慢すれば良いんだろ、って。
この時はそう考えたんだ。

でも。
アイツは嘘は言ってなかった。

結局この件をきっかけに「玉」を何年も続けることになって。オイラは最初に社長に言われたことの意味をよくよく思い知ることになる。

「俺は忠告した。お前はどうする?」

「……やる」

ケン君は助けなくちゃいけない。
二宮カズナリにやらせるわけにもいかない。

この先どうなるのか分からないけど、もうオイラには血の繋がってる家族は他に居ないし。
これっきりになるとしても、出来ることなら、何か一つでも良いことをしてやりたい。

 コイツも母親を亡くしたんだと初めて知って、余計に放ってはおけなかった。

ヒガシヤマさんは、とてもじゃないけど甥っ子を可愛がるタイプには見えないんだけど。コイツがこんなに必死になって役に立とうとしてるってことは、家には他に頼れる人間が居ないんじゃないのか。

まして資産家なんだから、オイラには想像もつかないような事が色々あるのかもしれない。

かーちゃんが一番恐れてたのもそれだ。
一族の中で派閥や敵対関係がある、って言ってた。

だから巻き込まれないためにオイラを妊娠してすぐに行方をくらますことを選んだって。

認知するって話が出た時も、オイラの幸せの為にはどっちが良いか分からない、って泣いてた。

「やるんだな?」

ヒガシヤマさんが念押しするみたいに言うのに、しっかり頷いた。

それを確認してから、彼はオイラにシャワーを浴びてベッドルームへ行くようにと指示をした。

素直に従った俺は知らなかったんだ。
叔父さんに無視された二宮カズナリが、ずっと帰らずに残っていたなんて。
高校生のオイラでもかなりショッキングな出来事だったんだから、中学生だったあいつにはもっと衝撃だっただろう。

可哀相なことをしてしまった。

後に、そう何度も思った。


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