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夜の影

第28章 Introduction~STORM~

【紀之side】

「お前は……」

家族の介護があったと言っていた。
女の子と遊ぶ暇も無かったのかもしれない。

「まぁ、いい。取りあえず慣れろ。キスなんてものは挨拶と同じだ」

言って、アヒル口になった 唇の間に指を割り込ませようとしたら、カプリと歯を立てられた。
痛みは無い。甘噛みだ。

犬猫じゃぁあるまいし、と思うが、気を引くには十分だった。

「ふっ」

面白いな。
このまま抱いてしまおうか。

徐々に馴らしてやるつもりだったが、気が変わった。

啼かせてやろう。

俺の下で存分に跳ねろ。

「あっ!」

押し倒して唇を重ねる。

しかし。

口中を蹂躙していくのに必死に耐えていた智の舌は、そのうち反応が鈍くなって。
やがて動かなくなった。

「……おい」

スースーと呼吸が長くなったから、呼びかけてみる。
返事がない。

「これは……なかなか屈辱的だな」

こっちがソノ気になったと言うのに。

万歳した手を握って、片足を曲げた格好で眠る姿が赤子のようじゃないか。

「……やれやれ」

仕方なく抱き起して布団に入れてやった。

煙草を一本吸う間、あどけない寝顔を眺めて。

寝室を出ると、家に帰した筈のカズが廊下で蹲っていた。


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