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夜の影

第29章 Baby don't cry.

【紀之side】

カズには理解出来ないだろうが、こいつの父親が現状を見逃しているのは、ある意味温情だ。心が危うい子供を跡継ぎにすることに、本家は反対だと聞く。

ここに出入りしていることはとっくに把握している筈だが、禁止しないのは罪悪感故か。父親は半ば諦めているのだろう。

俺に資金援助をしているのも、姉の件に加えてカズのことが負い目としてあるからだ。

表の仕事が飲食店経営で、二宮家にとっては取るに足らないビジネスだから、今まで探られずに済んでいる。だが「暁」のことまで知られるのはまだ早い。

更に智と繋がったことが判れば、カズの代りに智を跡継ぎにと言い出す可能性さえあった。

「っ、に、兄さん、と、い、っしょに」

ブルブル震えながら言いつのる様子を見て、これではもう、言質を与えるより仕方ないと思った。

「わかった。一緒に暮らせるよう、俺からあの人に言ってみよう」

「……っ、ほ、ほんと?……」

「今すぐは無理だぞ。高校を卒業するまではあの家に居るんだ。
大学に入ったら俺の仕事を手伝ってもらう」

カズはショックを受けた顔で首を振る。

「あと3年も、待てないよ……」

「カズ、いいか? お前は賢い子だ。
待てないなら、どうすればもっと短く出来るか自分で考えるんだ。
学生のうちに取れる資格は取っておくなり、下準備をしておけ」

「わ、わかった」

まだ心配そうな顔をしているから、頭を撫でてやった。

「そんなに泣いたら目が潰れるぞ」

昔から泣いた時に必ず言って来た言葉を口にすると、カズはやっと少し笑った。


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