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夜の影

第29章 Baby don't cry.

【紀之side】

だが、今でも癒えない傷を抱えている。
自分のせいで母親が死んだのだと、どこかで思っているのだ。

親に自死された子供なら、どうしたって自分を責める。

俺には慰めの言葉は言えない。
せいぜいが、生き延びる為の理由を作ってやるぐらいだ。

「お前が子供なのはお前の責任じゃない。
俺はお前が大人になるのを待っている。
あの家を継ぐのはお前だ」

「……っ」

何か言おうとしてカズが咳き込む。
その背を暫く擦ってやった。

ようやく顔を上げ、涙を拭き拭き、しゃくり上げながら訴える。

「僕はっ、あんな家っ、い、いらないっ……
 兄さん、と、一緒に、住みたい……」

それは出来ないよ。
あの男を追い落とすには力が必要だ。

サカモトのように弟を抱えお互いに支え合って生きるには、俺の憎しみは大き過ぎる。
お前だけの為には生きられない。

「ダメなの? 僕が、や、役にっ、立たないっ、から?」

正面から俺を見て、またポロポロと涙を零す。

「…………」

俺はカズに表情が見えないよう、両手で顔を覆った。溜息が出る。

一体何と言えば伝わるのか。
あの動画を見せたのは失敗だったか。

最近は随分しっかりしてきたと思っていたが、智の言うように厳しく言い過ぎたのだ。

この様子だと智の声も聴いていたのだろう。刺激の連続でカズはすっかり不安定になっていた。



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