テキストサイズ

夜の影

第32章 愛に似たもの

【智side】

「も~信じらんない!
今日が初会なんでしょ!?
どこの世界に今からデビューする玉を抱き潰す親が居るのよ!!」

「…………」

「ノリッ、聴いてるの!?」

「……聴いてる」

ヒガシヤマさんの家の寝室で、オイラはベッドから出してもらえずに横になっていた。

朝起きたら微熱があって。
気分は悪くなかったし、大した熱でもないのに、ヒガシヤマさんがヒロさんを呼んでくれて。

サロンの定休日だったそうで、朝早くに駆けつけてくれたヒロさんは、ずっとヒガシヤマさんのことを怒っている。
同級生らしいけど、いつもクールなヒガシヤマさんにズケズケ言ってるのが面白い。

「智、笑うな」

無表情に言うのがまた可笑しい。

「ふふっ、なんか夫婦みたい」

「やめろ」

「やだぁ、そう見えるぅ?」

「うん、とーちゃんとかーちゃん」

嬉しそうに振り返ったヒロさんに思ったままを言ったら、表情がちょっと変わった?

何か言いたそうな顔を見てたら、ベッドに腰掛けていたヒガシヤマさんがオイラの顔を撫でた。
心配されてる。

「薬も飲んだし平気だよ」

「……本当に家に戻らなくていいのか?
止めてもいいんだぞ」

やめない、って何度も言ってるのに。

「家に帰っても誰もいないし。
寝てれば治る。
今日は顔合わせだけなんでしょ?」

笑って見せたら、ヒガシヤマさんは小さく溜息を吐いた。

「俺はちょっと出掛けるが夕方までには戻る。
熱が上がったら初会は中止だ。無理するな」

「うん、行ってらっしゃい」

言うと、オイラの手を取って指にちゅっ、てキスしてくれた。黙って見てたヒロさんが明るい声を出す。

「アキラ、うどんとお粥どっちがいい?」

「うどん」

「オッケー」

ニッコリ笑ったヒロさんに、ヒガシヤマさんが言った。

「ヒロ、智だ」

「え?」

「智と呼んでやれ」

「サトシね、はぁい。
じゃ、サトシ、ちょっと待っててね」

二人揃って部屋を出て行った。

ホントにそんな、具合悪いって程じゃないんだけどな。
ちょっと熱っぽい程度でさ。
どっちかって言うと、尻の方が具合悪いっていうか。
やっぱ痛くて。

え、もしかしてそれで熱が出たのかな。
オイラは風呂場の鏡で見た青くなった自分の尻を思い出した。

飲まされた風邪薬のせいで眠い。
ほわ~っと温かくて、安心して目を閉じた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ