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夜の影

第32章 愛に似たもの

【智side】

頭も躰も胸の中も、全部がぽや〜っとしてる。朝起きてからもずっと、ヒガシヤマさんの感触が消えない。

さっきキスしてくれた指を口元に持って来て、自分でも、ちゅ、とキスをした。
どこもかしこも、甘く痺れてる。

不思議だ。
人と抱き合うって、こんな気持ちいいんだなあ。

行為そのものは正直言って、凄く気持ちいいか、っつーと微妙だけど。
繋がる前、躰全部を撫でられたりキスされてた時は、触れてる肌が気持ち良過ぎてトロンとなった。

じわじわ、ジンジンしてさ……。

オイラ、もうあの人に何回イかされたんだろ。

あ。
思い出してたら、なんか脚の付け根がムズムズしてきた。



今朝、ベッドの中でほっぺたを撫でられてる感覚で目が覚めて。なんだろ、気持ちいいな、って。
誰かがオイラに触れてる、と思って。

目を開けたらヒガシヤマさんがオイラのことを見てた。

あったかくて。
一人じゃない。
自分を見ててくれる人が居て、その人が笑いかけてくれる。

嬉しくて、しばらくの間、ぼうっと見惚れてた。

「おはよう。眠れたか?」

「ん、おはよ……」

返事をしたら抱きしめてくれた。



その時、オイラは思ってしまったんだ。
ああ、ここにずっと居たいなぁ、って。

今までは、ガランとした家で朝一人で起きて。
ストーブ点けて、自分の分だけコーヒー淹れてさ。

『おはよう、智』

スリッパの音が聞こえた気がして、かーちゃんの声に振り返るのに、誰も居ない。

一人きり。

人が死ぬってさ。
家族が死ぬ、って慣れないよ。

居ないんだ、って解ってるのに、つい現れるのを待ってしまうんだ。

ひょっこり顔を出すんじゃないか。
今にも玄関が開いて帰って来るんじゃないか。
オイラを呼ぶ声が聞こえるんじゃないか、って。



もしも、ケン君を無事に助けられたら。
オイラでもあの人の役に立つって思ってもらえたら。
ここに置いてもらえるかな。

誰かと一緒の朝を迎えて、やっと気がついた。
オイラはもう、あの家に一人で居るのは限界だった。


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