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夜の影

第32章 愛に似たもの

【紀之side】

煙草の灰が落ちそうになっているのに気づいて間に合わず、慌てて手で受け止めた。
ソファへ戻ると、ヒロが心配そうに俺を見つめている。

「心配するな」

「信じていいのね?」

重い表現が意外だった。

「悪いけど、アタシは貴方のことよりサトシが心配。
あの子、カズくんのお兄ちゃんってことはお父さんは? 援助してくれる家族はいないの?
さっき、家には誰も居ないって言ってたわよね?」

「ああ。母子家庭で、母親はつい最近亡くなった」

それを聞いたヒロが、大きく息を吐きながら顔を覆う。

「淋しさにつけ込むような真似をして」

その言い方にカチンと来た。
煙草を揉み消す。

「それは俺を責めているのか?」

手を外して真っ直ぐに見つめてくる顔は、俺を睨んでいると言ってもいい。

「今回限りにしたところで、男を知ってしまって元の自分にスンナリ戻れると思うの?
あの子、別に男が好きなわけじゃないんでしょ?」

「暁に来る奴なら珍しくもないことだ」

「そういうことを言ってるんじゃないのよ」

声を抑えようと努力しているようだが、目が怒っている。

「貴方のことだから悪気はなかったんでしょうけど、ハッキリ言うわ。
仕込みは相手をねじ伏せるところから始まるんだから、今のあの子にとっては貴方は絶対的に上なの。
逆らえないのよ?」

「俺は智に忠告した。
何度も止めてもいいと伝えたが本人がやると言ってるんだ」

「そりゃぁ、そう言うでしょうよ。
どうせ、しっかりマウントをとってから、うんと優しく抱いたんでしょ?
ノリ、貴方の優しさは毒と同じよ。
甘やかして懐かせて、仕事をさせたら金を払ってポイ」

「ヒロ、それは本気で言っているのか?
俺のやり方を否定していると受け取っていいんだな?」

「…………」

「ヒロ」

どうなんだ? と目を合わせて問うた。
長い付き合いだ、こいつが優しいのはよく解っている。
昔からの友人でもあるが、聞き捨てならない。

「……ごめんなさい、言い過ぎた。
ノリのことは信じてる」

目を伏せて悲しそうに言った。

「さっき見てきたら、あの子、眠りながら泣いてたの。
『アキラ』のことを思い出しちゃって……。
感情的になって悪かったわ」

「……出掛ける」

そう告げて、会話を切り上げた。


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