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夜の影

第32章 愛に似たもの

【紀之side】

「それでノリはどうするつもりなの?」

ヒロからの問いには答えず、煙草に火を点けた。

智に危険が及ぶのだけは避けなければ。
無事に戻すのが第一だ。

そして、この先二度と二宮家には関わらないように。
本人が望むなら別だが、あの家に取り込まれたら、修羅の道だ。

今回はMr.Chanの顔を潰さなければそれでいい。
サカモトの弟のことは、何らかの情報が少しでも手に入れば上々。それは既に言ってあるし、あいつも理解している。



そもそもの発端は、客からの招待で香港へ行ったマツオカの報告だ。
あちらで引き合わされたリンという医者。
医師の資格もあるそうだが、現在では日本で学んだ催眠療法を生業にしているという男。

Mr.Chanは、彼に自分の性癖もカムアウトしていた。
リンは理解を示し、自分も同様であると明かしたという。
それがMr.Chanにとっては彼を信頼する決め手になった。
実際に体調が良くなったのだから尚更だ。

だが、マツオカの目に映った彼は。

「インチキ宗教の広報担当みたいな男。
じゃなかったらテレビ通販のMC、ってとこすかね。
猫なで声と笑顔が気持ち悪いタイプ。
大人も何であんなのを信用したんだか」

とにかく、うさん臭さかったらしい。

リンは自分が目を掛けているという日本人の少年を連れていた。
若い燕を自慢したかったMr.Chanに合わせて、自分も同じ趣味だと演出した可能性もあるが、再びマツオカの言葉を借りると「あれはヤッてますね」だ。

その少年がサカモトの弟だった可能性がある。

少年のことをリンはあちらの言葉で「小猫」と呼んでいた。だから名前は分からない。
本人は殆ど喋らず、リンが得意げに披露したところによると、どうも経歴がサカモトの弟とかぶる。

日本で住んでいた地域、年齢。
両親がおらず兄弟と暮らしていたが、子供の頃にリンに引き取られた。
今はリンの仕事を手伝っている。

口数が少なく置物のように大人しい少年だったが、マツオカと二人だけになった僅かな時間、日本語で告げたそうだ。

「彼に関わったら酷い目に遭うよ。
もし貴方がこの先も陳大人と共に居るのなら、リンには関わらないように言って。
ネットで検索してみればわかる」

そう言って検索ワードを教えた。
で、出て来たのがあの動画だった。


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