夜の影
第33章 初会
【智side】
黙って座っていればいい、と言われたから姿勢に気をつけて大人しくしていたんだけど。
意味の分からない話をひたすら聞いているのは結構辛い。
間が持たなくて出されたシャンパンに口をつけてみたら、飲んでから胃がムカムカしてきた。
ハヤシさん、かもしれない人は遅刻するみたいだから、オイラは緊張しながら意識だけは入口の方に向けてた。
顔を見てハヤシさんだと判ったら、すぐヒガシヤマさんに合図をすることになっている。
オイラに判るだろうか。
10年以上も経っているから、向こうではオイラには気づかない筈。
でも、もし気づかれたら?
夢で見た時の、気持ち悪い感覚が蘇る。
小学校一年生の男の子に、あの人は何をするつもりだったんだろう。
攫われたケン君は、どんなことをされた?
あの動画に映っていた少年は?
「ヒガシヤマさん、一度だけ林医生に電話をしてもいいですか?」
しばらくして目の前にゆったりと座っていたお客さんが言って、30分経ったんだと気づいた。
相手は電話に出なかったらしく、困った顔で首を振る。
日本語がとても上手で穏やかな話し方をする人だったけど、顔がちょっと怒っていた。
「そうですか。では残念ですが、またの機会にということで。私どもは失礼をいたしましょう」
ヒガシヤマさんの返事はごく普通の喋り方で、動じた様子もない。
「やはりペナルティは私が持つのでしょうね?」
「キャンセルであっても花代は予定通り全額を。それが暁の規約です。
改めてご連絡いたします。どうか良いご滞在を」
お客さんが、今度はハッキリと面白くない顔をした。
これで終わり?
「アキラ、帰るぞ」
オイラの肩にヒガシヤマさんの手が触れて、ホッとして立ち上がった。
その途端、貧血が起きたのか、突然酷い耳鳴りが起きる。
あ、やばい。
倒れるかも。
店の入り口の方から男の人がこちらへ向かってやって来るのが見えた。
「林医生!」
「遅くなって申し訳ありません」
この人が。
オイラ、顔を見て確かめないと。
夢で見たのはこの人?
似てるような、似てないような。
耳鳴りが酷くなって、挨拶してる声も聞きとれない。
オイラの肩からヒガシヤマさんの手が離れた。
握手する手を流れでオイラも見る。
現れた男の人の指には、肌色のテープが絆創膏のように巻かれていた。
黙って座っていればいい、と言われたから姿勢に気をつけて大人しくしていたんだけど。
意味の分からない話をひたすら聞いているのは結構辛い。
間が持たなくて出されたシャンパンに口をつけてみたら、飲んでから胃がムカムカしてきた。
ハヤシさん、かもしれない人は遅刻するみたいだから、オイラは緊張しながら意識だけは入口の方に向けてた。
顔を見てハヤシさんだと判ったら、すぐヒガシヤマさんに合図をすることになっている。
オイラに判るだろうか。
10年以上も経っているから、向こうではオイラには気づかない筈。
でも、もし気づかれたら?
夢で見た時の、気持ち悪い感覚が蘇る。
小学校一年生の男の子に、あの人は何をするつもりだったんだろう。
攫われたケン君は、どんなことをされた?
あの動画に映っていた少年は?
「ヒガシヤマさん、一度だけ林医生に電話をしてもいいですか?」
しばらくして目の前にゆったりと座っていたお客さんが言って、30分経ったんだと気づいた。
相手は電話に出なかったらしく、困った顔で首を振る。
日本語がとても上手で穏やかな話し方をする人だったけど、顔がちょっと怒っていた。
「そうですか。では残念ですが、またの機会にということで。私どもは失礼をいたしましょう」
ヒガシヤマさんの返事はごく普通の喋り方で、動じた様子もない。
「やはりペナルティは私が持つのでしょうね?」
「キャンセルであっても花代は予定通り全額を。それが暁の規約です。
改めてご連絡いたします。どうか良いご滞在を」
お客さんが、今度はハッキリと面白くない顔をした。
これで終わり?
「アキラ、帰るぞ」
オイラの肩にヒガシヤマさんの手が触れて、ホッとして立ち上がった。
その途端、貧血が起きたのか、突然酷い耳鳴りが起きる。
あ、やばい。
倒れるかも。
店の入り口の方から男の人がこちらへ向かってやって来るのが見えた。
「林医生!」
「遅くなって申し訳ありません」
この人が。
オイラ、顔を見て確かめないと。
夢で見たのはこの人?
似てるような、似てないような。
耳鳴りが酷くなって、挨拶してる声も聞きとれない。
オイラの肩からヒガシヤマさんの手が離れた。
握手する手を流れでオイラも見る。
現れた男の人の指には、肌色のテープが絆創膏のように巻かれていた。