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夜の影

第33章 初会

【Mr.Chan視点】

胸ポケットに入れたスマホを気にしながら、当たり障りのない世間話を始めた。時間が過ぎるごとに、内心で苛立ちが募って来る。

私もまた時間を守らない人間を嫌うことぐらい、林医生だって知っている筈だ。
同胞は神経質すぎると笑うが、大陸のルーズさは世界では通用しない。

遅刻の理由は、同行した少年、いつも「小猫」と呼び傍に置いている子とはぐれてしまった為と言っていた。
東京育ちなら大した危険もないだろうに、一体何をやっているのか。

まぁ、私に回してくれる方の子は一緒に居るというから問題ない。



そう。
私が今回アキラを呼ばなかったのには理由がある。
滞在中、林医生から日本人の少年を一人回してもらえることになっていた。

写真で選んだその子は出会った頃のアキラを彷彿とさせた。

私のアキラ。
あの子は初物から私が世話をした。
あれの初めてを奪い、征服し、与えて育ててきたのは私だ。

最早、妻などよりも、ずっと愛している。

身請けを申し出たことも一度や二度ではないというのに、あの子は何故日本を離れたがらないのか。
やはり、私に不満があるのか。
今の私は、病だけでなく大きな問題を抱えていた。

正直に白状すると、今の私にはアキラを悦ばせる自信がない。医薬の副作用で男性機能が衰えている。

かかりつけの医者では解決しなかったこの問題を、思いがけず催眠療法が改善してくれた。
男としての自信を取り戻せたのは全て林医生のお陰だ。

ただ、まだアキラを満足させられるか、少々不安がある。
それでなくとも最近は衰えに気づかれていて、情けないこと、この上ない。
身請けどころではなかった。



林医生の話に私は飛びついた。
まだ年若い少年が相手ならプレッシャーも少ない。
以前のような男のチカラを取り戻せる筈だ。

しかし、タダではない。
林医生は「暁のアキラ」に大変興味を持った様子で、自分も会員になりたいと要求してきた。
是非初めての子を、と熱望されて口をきいてやったのに。



気取られぬよう壁時計をチェックしていたが、時間切れか。携帯電話にもメッセージが入る様子がない。

日本で長く暮らしたというから待ち合わせも了承したのに、まさかのスッポカシとは。
私の見る目が無かったということだな、と苦々しく思いながら、世間話を切り上げた。


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