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夜の影

第34章 初会2

【智side】

後からヒガシヤマさんに聞いたところによると、オイラは前もって決めていた合図「2回咳込んでから、失礼しました、と言う」をやってから、倒れたんだそうだ。

ハヤシさん(ってことにしとく)が自分は医者だから任せて、と言ったのをヒガシヤマさんが断って、待機していたサカモトさんと俺だけ、すぐにタクシーに乗ったんだって。

そこら辺のことは、オイラは全然記憶に残ってない。
サカモトさんがあのホテルに居たことも、ちっとも知らなかった。

気持ち悪くて、寒気でゾクゾクするのが苦しいばっかりで。マンションに戻ってから、薬を飲まされて寝ちゃったみたい。

体が熱くて、汗が気持ち悪くて目が覚めたのは、ベッドの上だった。
誰かが顔の汗を拭ってくれてて、ヒガシヤマさんだと思って目を開けると二宮カズナリが枕もとに居る。

一瞬夢だと思って。

「あれ……なんで居るの……」

オイラが言ったら、顔をくしゃくしゃにして泣き出した。

「大野さん……うっ、うっ……」

「智でいいよ。俺もカズって呼ぶから……」

言ったら増々泣くんだ。

「お前、なんでそんなに泣いてるの?」

「僕が、っく、頼ん、だ、から……
うっ、ご、ごめんっ……」

馬鹿だなぁ、気にしなくていいのに。
オイラ、ケン君と友達だからだよ。

自分で決めたんだから、いいんだ。

そう言ってやりたいのに、怠くて頭も口も回らない。

「俺こそ、ごめんな……」

お前、一人ぼっちなんだろ?

俺はとーちゃんが居なくても他の家族が居たから淋しくなかったんだ。
でも、お前はとーちゃんが居ても淋しいんだもんな。
可愛がられてるわけじゃないんだろ?

「ウチのかーちゃんと、俺のせいだ」

きっと、そうだよな?

俺の弟なのに、今までどう暮らしてるのかなんて気にしたこともなかった。
お前がバイト先に訪ねて来なければ、俺からは絶対に会いに行かなかっただろうし。

あー、バイト、明日シフト入ってたんじゃなかったっけ。

「俺、バイト、休む連絡しないと……」

むにゃむにゃ言ったような気がするけど、オイラはすぐにまた眠ってしまった。


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