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夜の影

第34章 初会2

【智side】

実際には本当に眠っていたのかも分かんない。
眠っては起きるの繰り返しだったんだろう。
目を開けると枕もとにカズが必ず居た。

深夜、何回目かに目を開けた時、ようやく体が楽になっていて。発熱の一番苦しいところを過ぎたのが体感でわかってホッとしていた。
渡されたビタミンCのゼリー飲料を飲むと、やけに美味しく感じられる。

「今何時? ヒガシヤマさんは?」

「もうすぐ12時。
ノリユキ兄さんは、まだ帰って来てない」

スマホで時間を確かめたカズが言うのを聞いて驚いた。

「え、お前、大丈夫なの?
明日も学校だろ?」

「僕、学校は元々あんまり行ってないんだ。
だから大丈夫」

「えー? 受験とかは?」

「ああ、エスカレーターだし、それは平気。
今、いろいろ進学のことも考えてるんだ。
高校、行かない方が良いかなって」

なんだか妙に明るい顔で言う。
何か話したそうだったから、そのまま聴いていた。

「僕、将来はノリユキ兄さんの仕事を手伝いたいんだ。
えっと、管理の方ね。だから資格も沢山取らないと。
考えたんだけど、進学しないで高卒認定を取った方がいいかな、って。
そうすれば、すぐに役に立てるでしょ?」

凄く良いことを思いついたみたいに、嬉しそうに言った。

「へぇ、すげぇな……お前、叔父さんのこと本当に好きなんだなぁ」

「うん。僕にはノリユキ兄さんしかいないから」

父親との関係がどうなってるのかが気になったけど、恥ずかしそうに笑うカズの顔を見ていたら訊けなかった。
オイラの立場でそういうことを訊くのも気が引ける。

「智は……将来の夢とか、やりたいこと、ってあるの?」

「俺ぇ? うーん、俺は正直、考えてなかったんだよなぁ」

「え? 全然?」

「うん、全然。ふふっ。
絵を描くのを仕事に出来たらいいな、とは思ってたんだけど。
そっちの大学に行くにも予備校とか行った方が良い、って担任に言われてさ。
絵の予備校、って、ちょっと想像つかないし。
考えてみたら絵は一人でも描ける。
ウチ、ずっとばーちゃんの介護があって、いろいろ大変だったから」

言うとカズの顔が途端に曇る。

「ああ、気にすんな。
別に不幸だったわけじゃない」

「そう……」



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