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夜の影

第34章 初会2

【智side】

やる、って言ったら、ヒガシヤマさんは何とも言えない顔でオイラを見ていた。
基本が無表情の人だから分かりにくいけど、オイラのこと、多分気にしてる。

「ここまで来て逃げ出したら、きっとオイラは一生ケン君のことが気になるよ。
やるのは自分の為だから」

そう言ったら、わかった、って返事があった。

熱は落ち着いたし、一緒にベッドに入って。

「お前は独特な匂いがするな」

腕枕で言われて、自分が臭いのかな、って焦ったけど。
離れたくなくて、くっついてた。

ずっと年上で、大人で。
無表情で、冷たく見える人。
オイラが初めて躰を繋げた人。

決して冷酷なわけじゃない。
言葉で何か言ってくれるわけじゃないけど、この人の手が好きだ。

抱きしめてくれる腕も、触れる指も、唇も。

「ねぇ、帰って来てから『挨拶』してないよ?」

言ったら少しだけ笑って、額にちゅっ、てしてくれた。

「熱があるんだからもう眠りな」

「うん、おやすみ……」

「おやすみ」

何だか泣きたいような気持で目を閉じた。





その次の日、予定していた「裏」は延期にしてもらって、オイラはサカモトさんと病院へ行った。
ヒガシヤマさんは仕事があったから。

自分ではもう治ったつもりだったけど、採血と、あと、何だか分かんない点滴を打たれた。

病院の先生はヒガシヤマさんの友達でウエクサ先生といって、優しそうな笑顔が感じの良いお医者さん。

「元から貧血持ちなの? ちゃんと食事とか気をつけてる?」

「あ~、最近はあんまり。
でも、別にそんな体が弱い方ではないです」

「飛んだり跳ねたりした時に胸が苦しくなったりしないかい? 動悸は?」

「……時々」

「そうだろう。若いからって過信しちゃダメだよ。
時間がある時で良いからまたおいで。
鉄剤を出してあげるから」

「はい」

実は、結構前から変な動悸がすることはあったんだけど。
痛いわけじゃないし、そのまま放置してた。

本当は……このままにしておけば、向こうに行けるんじゃないか、って。

皆が居る場所に。

この先ずっと、一人きりで生きていくのは想像出来なくて、さ。

でも、少なくとも今はやることがある。
熱を出してる場合じゃない。

終わったら一人の家に戻れるか、正直自信ないけど。
今は目の前のことをやる。

そう思った。


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