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夜の影

第34章 初会2

【智side】

お互い微妙に気を遣いながら、少しずつ自分のことを話していると、玄関が開く音がした。

「帰って来た!」

嬉しそうにカズが言う。

「お帰りなさい!」

「カズ、遅くまで悪かったな。
とても助かった、有難う」

コートを着たままのヒガシヤマさんが、カズに笑いかけて頭を撫でた。それでオイラは、いつもカズに厳しくしてるわけじゃないんだ、って分かって。
何て言うか、この二人の絆が見えた気がしてちょっと驚いた。

この人が誰かにちゃんと笑いかけるところを見たのは、初めてかもしれない。

ぼんやり見ていたらヒガシヤマさんは俺の傍まで来て。
ベッドに腰掛けると、体を起こしてたオイラのことを抱きしめた。

腕が伸びてきたからオイラも普通に手を回したんだけど。

「智、大丈夫か?」

「うん」

「まだ体が熱いな」

ついそのまま「挨拶」するのかと思って顔を上げようとしたら、カズと目が合った。
カズは呆然とした顔でこっちを見てた。

あぁ。

そうか。

気がついて、ヒガシヤマさんから離れた。



それからサカモトさんがカズを送って行って、オイラ達は改めて今後のことを話した。

ぶっ倒れてしまったオイラの体調不良を理由に、今回はキャンセルにしようとしたんだけど、結局そうならなかった、って。

お客さんもハヤシさんも、オイラが回復したら一日でもいいから、って引かなかったそうだ。

ヒガシヤマさんが、続けられるか? って心配そうにオイラに訊く。

「林は今回、日本人の少年を二人同行している。
ウチの玉の話だとそのうち一人がサカモトの弟らしい。
だが、林は日本に来てはぐれたと言っていて、行方が分からない。
サカモトが自宅付近を見に行ったが、今の所それらしい気配はないようだな」

「そうなんだ……」

「いつ弟が戻っても良いように、あいつはずっと同じアパートで生活してる。
もし逃げ出したのなら、戻って来る可能性はあるが……」

「警察には?」

オイラの質問にヒガシヤマさんは首を振った。

「捜索にはMr.Chanが人を出すことになった。
写真の一枚でも手に入るかと、俺も手伝いを申し出たが断られた。
滞在中に見つからなければ、恐らくそのまま帰国する。
東京なら俺の方でも動きようはあるが、情報が少な過ぎる」

それを聞いて、オイラは心を決めた。
最後まで、逃げないって。

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