夜の影
第35章 シリウス
【紀之side】
「ここでいつもオイラ達、大好きな家族を待ってたんだ。
かーちゃんが帰って来る時間を知るために、時計も読めるようになった。
大人はオイラ達のこと、かわいそうな子供と思うかもしれないけど、いつも楽しく遊んでたんだよ」
当時を思い出すのか、智の表情は柔らかい。
サカモトを優しい顔で見上げている。
あのね、と言いかけて、少し迷うような間の後で、また話を続けた。
「オイラ、ケン君に訊いたことがあるのね。
ケン君はとーちゃんも、かーちゃんも居ないけどさみしい? って」
「…………」
サカモトは意表を突かれたのだろう。
真顔になって、言葉もなく智を見ていた。
「ウチもとーちゃん居なかったじゃん。
たまにね、ばーちゃんが、オイラに父親が居ないのがかわいそうだ、って言って、かーちゃんとケンカしてたんだ。
オイラ、別に何とも思ってなかったんだけど、大人にそう言われると、自分はかわいそうな子供なのかな、ってだんだん思ってきて。
だから、ケン君に訊いてみたのね」
「ケンは何て言ってた?」
言葉が出て来ないサカモトの代わりに、俺は智に尋ねた。
「全然さみしくない、って。
僕にはお兄ちゃんが居るし、お父さんとお母さんが愛し合って生まれた子供なんだから、胸を張っていいんだ、って。
いつもお兄ちゃんにそう言われてる、って教えてくれた。
あれ、オイラは少しショックだったなぁ」
「どうして?」
「羨ましかったんだよ。
俺だって勿論さみしくはなかったんだけど、なんか負けた気がしたって言うか。
ウチのばーちゃんの口振りで、何となく、父親が居ないのは悪いことなのかな、って思ってたし。
子連れだと結婚出来ないとか聞いちゃうとさ。
自分が本当は要らない子供なんじゃないか、って思ってたんだろうね。
分かんないけど……
ちゃんと両親に愛されてたんだ、だから生まれて来たんだ、ってしっかり言ってくれるお兄ちゃんがいるって、いいなぁ、って思ったのかな」
智はポケットから手を引き抜くと、サカモトの前に向かい合うように立って。
「ケン君、必ず帰って来るよ。
きっと会えるって、オイラ信じてる」
菩薩のような顔で、サカモトに微笑みかけていた。
「ここでいつもオイラ達、大好きな家族を待ってたんだ。
かーちゃんが帰って来る時間を知るために、時計も読めるようになった。
大人はオイラ達のこと、かわいそうな子供と思うかもしれないけど、いつも楽しく遊んでたんだよ」
当時を思い出すのか、智の表情は柔らかい。
サカモトを優しい顔で見上げている。
あのね、と言いかけて、少し迷うような間の後で、また話を続けた。
「オイラ、ケン君に訊いたことがあるのね。
ケン君はとーちゃんも、かーちゃんも居ないけどさみしい? って」
「…………」
サカモトは意表を突かれたのだろう。
真顔になって、言葉もなく智を見ていた。
「ウチもとーちゃん居なかったじゃん。
たまにね、ばーちゃんが、オイラに父親が居ないのがかわいそうだ、って言って、かーちゃんとケンカしてたんだ。
オイラ、別に何とも思ってなかったんだけど、大人にそう言われると、自分はかわいそうな子供なのかな、ってだんだん思ってきて。
だから、ケン君に訊いてみたのね」
「ケンは何て言ってた?」
言葉が出て来ないサカモトの代わりに、俺は智に尋ねた。
「全然さみしくない、って。
僕にはお兄ちゃんが居るし、お父さんとお母さんが愛し合って生まれた子供なんだから、胸を張っていいんだ、って。
いつもお兄ちゃんにそう言われてる、って教えてくれた。
あれ、オイラは少しショックだったなぁ」
「どうして?」
「羨ましかったんだよ。
俺だって勿論さみしくはなかったんだけど、なんか負けた気がしたって言うか。
ウチのばーちゃんの口振りで、何となく、父親が居ないのは悪いことなのかな、って思ってたし。
子連れだと結婚出来ないとか聞いちゃうとさ。
自分が本当は要らない子供なんじゃないか、って思ってたんだろうね。
分かんないけど……
ちゃんと両親に愛されてたんだ、だから生まれて来たんだ、ってしっかり言ってくれるお兄ちゃんがいるって、いいなぁ、って思ったのかな」
智はポケットから手を引き抜くと、サカモトの前に向かい合うように立って。
「ケン君、必ず帰って来るよ。
きっと会えるって、オイラ信じてる」
菩薩のような顔で、サカモトに微笑みかけていた。