夜の影
第35章 シリウス
【紀之side】
着いたところは小さな公園。
「ここか?」
「うん……こんな小さかったんだ……懐かしい。
あそこ、かーちゃんが働いてた会社だよ。
まだ在るんだなぁ」
呟いた智が口元に片手を持っていって息を吹きかける。
俺がその手を掴んでコートのポケットに入れると、嬉しそうに、ふふっ、と笑った。
「例の教会は?」
「うん、あそこの雪だるまがある後ろ、花壇があって。
緑のフェンスの向こう側が教会だった。
いつ無くなったんだろ……オイラ、あれからこの辺には殆ど来なかったから、ちっとも知らなかったよ」
かつて教会があったという場所には、マンションが建っていた。
「サカモトさんは教会が無くなったの知ってた?」
黙ったままのサカモトを気遣って、智が声を掛ける。
昨夜は殆ど眠れなかったのだろう、サカモトの目の下には疲労が滲んでいた。
だが、眼光はむしろ鋭い。
「ケンが最後に目撃された場所だから……何か手掛かりが残ってるんじゃないかと思って、ここには何度も来たよ。
でも、あの教会がいつ取り壊されたのかは……。
俺はあそこにも話を聴きに行ったんだ。
一度や二度じゃない。何度も。
まさか教会の人間が犯人だったなんて」
「…………」
智は怒りを堪えるサカモトをしばらく無言で見つめて。
それから、穏やかな声で語り掛けた。
「もしケン君が日本に戻って来たんなら、きっとお兄さんに会いたがってる。
ケン君、お兄ちゃんのこと大好きだったんだ。
いつも自慢してた。
だから、諦めなければ必ず会えるよ」
サカモトが黙って頷く。
事はそれ程単純なことではないだろう。
まずは弟を取り戻すことが先決だが、一体これまでどんな風に過ごして来たのか。
あの動画から察すれば、兄を慕っていたなら尚更会おうとはしないかもしれない。
サカモトもそれを危惧しているから黙っているのだ。
解けた雪で足元が悪い中、三人で敷地の真ん中辺りまで何となく進んだ。
何度も色を塗り替えられたらしい遊具は、所どころ錆びて赤茶の地肌を晒している。
柱状のポールが建っていて、その上に大きな時計が設置されていた。
着いたところは小さな公園。
「ここか?」
「うん……こんな小さかったんだ……懐かしい。
あそこ、かーちゃんが働いてた会社だよ。
まだ在るんだなぁ」
呟いた智が口元に片手を持っていって息を吹きかける。
俺がその手を掴んでコートのポケットに入れると、嬉しそうに、ふふっ、と笑った。
「例の教会は?」
「うん、あそこの雪だるまがある後ろ、花壇があって。
緑のフェンスの向こう側が教会だった。
いつ無くなったんだろ……オイラ、あれからこの辺には殆ど来なかったから、ちっとも知らなかったよ」
かつて教会があったという場所には、マンションが建っていた。
「サカモトさんは教会が無くなったの知ってた?」
黙ったままのサカモトを気遣って、智が声を掛ける。
昨夜は殆ど眠れなかったのだろう、サカモトの目の下には疲労が滲んでいた。
だが、眼光はむしろ鋭い。
「ケンが最後に目撃された場所だから……何か手掛かりが残ってるんじゃないかと思って、ここには何度も来たよ。
でも、あの教会がいつ取り壊されたのかは……。
俺はあそこにも話を聴きに行ったんだ。
一度や二度じゃない。何度も。
まさか教会の人間が犯人だったなんて」
「…………」
智は怒りを堪えるサカモトをしばらく無言で見つめて。
それから、穏やかな声で語り掛けた。
「もしケン君が日本に戻って来たんなら、きっとお兄さんに会いたがってる。
ケン君、お兄ちゃんのこと大好きだったんだ。
いつも自慢してた。
だから、諦めなければ必ず会えるよ」
サカモトが黙って頷く。
事はそれ程単純なことではないだろう。
まずは弟を取り戻すことが先決だが、一体これまでどんな風に過ごして来たのか。
あの動画から察すれば、兄を慕っていたなら尚更会おうとはしないかもしれない。
サカモトもそれを危惧しているから黙っているのだ。
解けた雪で足元が悪い中、三人で敷地の真ん中辺りまで何となく進んだ。
何度も色を塗り替えられたらしい遊具は、所どころ錆びて赤茶の地肌を晒している。
柱状のポールが建っていて、その上に大きな時計が設置されていた。