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夜の影

第38章 時代

【智side】

いや、あの人には殺されそうになってるんだけどさ。それに、大分、アレなこともされたけど。
でも、そんな、酷いことをされた、って感覚じゃないんだよなぁ。

催眠、ってそういうもんなのか、わかんないけど。恥ずかしいとか、怖いとか思わないんだよ。
まぁ、実際は全部クリアには憶えてなくて、大体な感じなんだけど。

何か悲しそうだな、と思いながら笑ってる口の形を見てて。
何だよ? って訊かれたから、一緒に行かないの? って、言ってみた。

『俺は行かないよ。
俺まで消えたら教団に怪しまれる、目を逸らすには残らないと。
その方が良いんだ。
健に関する動きがあれば内部に居た方が止められるしな。
お前、携帯の番号変えるなよ。
何かあれば連絡する』

そう答えて、電源を切った携帯をコートのポケットに入れてくれた。

寒くないようにマフラーをした襟を合わせてくれて。

あ、そっか。
オイラ携帯の電源切れたままだ。

思い出して電源を入れると、画面に出た時刻表示が、23:59から0時丁度に切り替わった。

ヒガシヤマさんに連絡、した方が、良いのかな……。
した方が良いよなあ……。

眺めているうちに、スリープで画面がまた暗くなる。



『お前も、もうこのままヒガシヤマとは縁を切れよ?
アイツにはお前のことは捜さないように言っといてやる。
暁がどんだけ凄いのか知らねぇけど、若い男を遣ってボロ儲けしてる連中なんて皆同じだ。
客が取れるうちはチヤホヤされっかもだけど、ちょっと年くって美しくなくなったら簡単に捨てられる。
アイツ等にとっては俺らの命なんてペットよりもずっと下なんだ。
美味しいことを言われても全部嘘。信じるなよ』

ゴウはまるで自分がそういう目に遭ったみたいな言い方をしてた。
ケン君と同じに、酷い目に遭って来たんだろうか。まだ小さい子供時代から、親とはぐれて。

一緒に居た時はボーッとしてたから、ただ黙って聴いてたけど。今は言われたことの意味がわかる。多分、オイラを心配して言ってくれたんだ。

俺だけタクシーに乗せられて。

『智、お前が本当に心から信じられる奴に、自分の名前を訊いてもらいな。
それで暗示が解ける。じゃぁな』

最後に車の中からガラス越しに見たゴウは、目だけ細くする照れたような笑い方で、オイラに向かって片手を上げていた。


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