夜の影
第39章 voice
【健side】
「待って、急にどうしたの?
帰って来たんでしょ?」
「もう行かなきゃ。手を離して」
「ダメだよ!
サカモトさんは?
お兄ちゃんに会わないの?
お兄ちゃん、ずっと捜してたんだよっ。
あれからずっと、ずっとケン君を捜してたんだ」
離れようとするオレと留めようとするサトシ君と。
それでもサトシ君は、オレを気遣って無理に顔を見ようとはしない。
「兄貴にはオレはもう死んでた、って言って」
「何言って! 家族が死んだなんて簡単に言うなよっ。
あの人、ゴウって人も、ケン君にお兄ちゃんのとこに戻って欲しいみたいだった。
逃がすチャンスは今しかないって、そう言ってた!!」
剛の名前が出て一瞬固まる。
何て?
「……剛がオレを逃がすって?」
「そうだよっ!!」
あいつ。
あいつ、まさか。
愕然としていると、道路の方で車のドアが閉まる音がした。人が走って来る足音が近づいて来る。
「剛は他になんて言ってた?」
押さえ込むみたいにサトシ君の体を包んで、小声で訊いた。
「えっ、ちゃんとは憶えてないけど、捜すな、って。
二度と戻って来るなって、確かそんな感じ」
くそっ。
あの馬鹿。
自分だけ残ってオレを逃がす気か。
確かに剛の催眠の腕があれば、教団はもう林が居なくても問題ない。
『羊』を上がったオレはもう儀式には使えないから、逃げられると踏んだのか。
馬鹿だ。
アイツ等にはそんな道理、通じない。
「サトシ君、オレもう行くね。
もう危ないことに関わっちゃダメだよ」
元気で、と言おうとした時、真夜中の公園に大声が響いた。
「健!!」
兄貴!!
慌ててサトシ君から離れる。
フェンスの方へと振り返る腕を、サトシ君が掴んだ。
振り払おうとして初めて、オレとサトシ君の目が合う。
オレを見たサトシ君は子供みたいに突然顔をくしゃくしゃにして、ボロボロと涙を零した。
イヤイヤをするみたいに頭を振ってる。
いじらしくて息が止まりそうだ。
「元気で。幸せになるんだよ」
精一杯優しく言って、笑いかけてから腕を振りほどいた。
フェンスまで走る間、背中で尚もサトシ君の声がする。
「サカモトさんっ、ケン君だよ!
ケン君なんだっ!!
行って! 追って!!」
「健!!」
迫ってくる足音を聞きながら、一番会いたかった人から走って逃げた。
「待って、急にどうしたの?
帰って来たんでしょ?」
「もう行かなきゃ。手を離して」
「ダメだよ!
サカモトさんは?
お兄ちゃんに会わないの?
お兄ちゃん、ずっと捜してたんだよっ。
あれからずっと、ずっとケン君を捜してたんだ」
離れようとするオレと留めようとするサトシ君と。
それでもサトシ君は、オレを気遣って無理に顔を見ようとはしない。
「兄貴にはオレはもう死んでた、って言って」
「何言って! 家族が死んだなんて簡単に言うなよっ。
あの人、ゴウって人も、ケン君にお兄ちゃんのとこに戻って欲しいみたいだった。
逃がすチャンスは今しかないって、そう言ってた!!」
剛の名前が出て一瞬固まる。
何て?
「……剛がオレを逃がすって?」
「そうだよっ!!」
あいつ。
あいつ、まさか。
愕然としていると、道路の方で車のドアが閉まる音がした。人が走って来る足音が近づいて来る。
「剛は他になんて言ってた?」
押さえ込むみたいにサトシ君の体を包んで、小声で訊いた。
「えっ、ちゃんとは憶えてないけど、捜すな、って。
二度と戻って来るなって、確かそんな感じ」
くそっ。
あの馬鹿。
自分だけ残ってオレを逃がす気か。
確かに剛の催眠の腕があれば、教団はもう林が居なくても問題ない。
『羊』を上がったオレはもう儀式には使えないから、逃げられると踏んだのか。
馬鹿だ。
アイツ等にはそんな道理、通じない。
「サトシ君、オレもう行くね。
もう危ないことに関わっちゃダメだよ」
元気で、と言おうとした時、真夜中の公園に大声が響いた。
「健!!」
兄貴!!
慌ててサトシ君から離れる。
フェンスの方へと振り返る腕を、サトシ君が掴んだ。
振り払おうとして初めて、オレとサトシ君の目が合う。
オレを見たサトシ君は子供みたいに突然顔をくしゃくしゃにして、ボロボロと涙を零した。
イヤイヤをするみたいに頭を振ってる。
いじらしくて息が止まりそうだ。
「元気で。幸せになるんだよ」
精一杯優しく言って、笑いかけてから腕を振りほどいた。
フェンスまで走る間、背中で尚もサトシ君の声がする。
「サカモトさんっ、ケン君だよ!
ケン君なんだっ!!
行って! 追って!!」
「健!!」
迫ってくる足音を聞きながら、一番会いたかった人から走って逃げた。