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夜の影

第39章 voice

【健side】

「まさか『暁のアキラ』がサトシ君だなんて、すげぇビックリしたよ。
何でまたこんなことになってんの?
家の人が知ったら悲しむぞ」

この時のオレはサトシ君が自分を捜すために協力してたなんて知らなかったから、普通に質問してしまった。

自分の為に泣いてくれる人が居ることが有難くて、愛おしくて。ちょっと兄貴ぶって注意してやりたくなったから。

「うん……オイラ、家族みんな死んじゃって、今一人なんだ」

思いがけない話で驚いていると、更に続いた。

「かーちゃんの違う弟が居て、そいつから頼まれたのがきっかけかな」

「そっか……いろいろと、あの頃とは変わっちゃったんだなぁ。
10年以上も経ってれば、当たり前か」

わかんないなりに、慰めの気持ちでサトシ君の頭を優しく撫でた。
家族がいたって、生き別れも、死に別れもある。

兄ちゃんだって好きな女ぐらい居るだろうし、子供が居てもおかしくない年だ。
本当なら、会いに来たらいけなかったのに。

「ケン君、戻って来たんだよね?
顔見せてくれないの?」

「ん~……知らない方が良いんだ。
サトシ君も、兄ちゃんも巻き込みたくない。
アイツ等、マジで狂ってっから」

「え?」

頭がオレの方に傾くのを、またギュッとして、自分の顔が見えないようにする。

「これ見て」

彼の目の前に両手を出して、左手の指に巻いていたテープを剥がした。

「これ……」

「入れ墨だよ」

黒く墨で描かれた禍々しいその文様は、教団に取り込まれたシルシ。
これを入れられたら、もう一生普通の生活は出来ない。

「これ、指によっても意味があるし、模様も何種類かあるんだけど。
これがあるヤツに会ったら、絶対に関わっちゃダメだよ。
人間でなくなる」

「どういう、こと?」

「ふん、嘘みたいだよな?
でもマジなんだ。狂ってる」

子供を騙して攫ってきて、贄として犯すことも。
見世物にして金をとることも。
動物みたいに飼うことも平気でやる連中。

アイツ等を思い出すと急速に心が凍ってく。
自ら鎖に繋がれることを望み、快楽に溺れ、魂を売り渡して恍惚としてる奴ら。
目を付けられたらお終いだ。

「……やっぱり来るべきじゃなかった。
ごめんな、サトシ君。
会えて嬉しかった」

「え?」

「もう行くよ。剛が待ってるから」

離れようとした腕を強く掴まれた。

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