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夜の影

第40章 恋

【智side】

『智か?』

いぶかしむように言われて、だけど泣いてしまってるから、返事が出来ない。

『智? 無事か?』

「うっ、うんっ……っ……」

会いたい。
迎えに来て。

そう言いたいのに言えない。

「俺、今、ウチの近く」

このまま自分の家に戻るよ、って言わなくちゃ。
帰れ、って言われる前に、自分から。

『怪我はないんだな? 今行く』

「……大丈夫、一人で帰れるから」

違う。
ホントは今すぐここに来て欲しい。
ギュッて抱きしめて欲しい。

もう大丈夫だ、って。
キスして笑いかけて欲しい。

想いとは全然違うことを言いながら、さっきのケン君が逃げた気持ちが分かる気がした。

好きだから、嫌われたくないんだ。
駄目な奴だと思われたくない。

『智? どうした?』

走り出したのか、スマホ越しに聞こえる靴音が早くなった。

「ホ、ホテルからここまで来るんじゃ、大変でしょ?
小さな子供じゃないんだから、俺一人でも家に帰れるよ。
だから、来なくていいよ」

『何を言ってる? いいから待ってろ』

「大丈夫だって」

なんとか普通に聴こえるように頑張って言った時、公園の入り口に人影が立った。
顔が見える距離じゃないのに、その立ち姿を見たら間違いなくヒガシヤマさんだ、ってわかって。

「智!!」

「……うっ……っ……」

オイラは逃げることも、駆け寄ることも出来なくて、走って来るヒガシヤマさんをただ見てた。
どんどん近づいて来て、ガバッと抱きしめられる。

「待たせて悪かった、もう大丈夫だ」

「…………」

背中を何度も擦ってくれる手と、胸元から伝わる走って来た息遣い。

迎えに来てくれた。
オイラのこと、迎えに来てくれた。

「怪我はないか? どうなんだ?」

確かめるようにコートの上から体を触ってから、顔を両手で挟まれた。

「だっ、だいじょ、ぶ……ケガ、ない、から……」

泣き泣き言ったら、ヒガシヤマさんは大きく息を吐き出して、今度は優しく包むように抱いてくれた。


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