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夜の影

第40章 恋

【智side】

「疲れたな……」

誰も居ない夜中の公園で独り言ちる。
自分の息が白く広がって、すぐに見えなくなった。

「頭痛い」

泣き過ぎと考え過ぎだ。

「寒いし……」

なんか、腹が減ったような気がするし、トイレに行きたいような気もした。

「ふふっ」

人間ってすげーな。
落ち込んで泣いても、取り敢えず何か食べよう、って行動するように出来てるんだ。

頭や心が馬鹿になっても、体は生きようとしてる。
それに気がついたら、気持ちが少し落ち着いた。

この先どうしようか。

サカモトさんとケン君が戻って来る気配はないし、いつまでもここに居て不審者で通報されたりしてもなぁ……。

きっと、ケン君は嬉しかったと思う。
どんなに合わせる顔がないって思ってたって、お兄ちゃんが迎えに来てくれたんだ。

自分のことを愛してくれる人が居る、って本当に物凄く尊くて、有難いことなんだと思った。



鼻をすすり上げて、顔を拭こうとジャケットのポケットをまさぐる。
ティッシュも持ってた筈だけど、ハンカチしか出て来ない。

あれ? ちょっと待て。
オイラ、もしかして、財布持ってない?
タクシー代はどうしたんだっけ?
ゴウが払ったのか?

ヤバッ、と思って焦っていると、膝の上に置いたスマホがいきなり震えた。
驚いて画面を見る。

「あっ」

ヒガシヤマさんだ。
ど、どうしよう。
何て言えば。
叱られる?

ハンカチを握ったまま、かじかんだ指でスマホを握ろうとしたら、ツルッと手から滑って。
足元の解けた雪の中に落下した。

「ああっ」

慌てて拾い上げて持っていたハンカチで表面を拭く。
寒くて足踏みをしてたから、雪がシャーベット状になってて。壊れたかもしれない。

バイブが鳴り続けてるのに、スマホが壊れたかも、って焦っちゃって。
拭き終わってから画面をタップしようとしたら、今度は自分の指が可笑しいくらいに震えて。
そのうち振動が止んでしまった。

「あっ、切れた……」

ああ、もう、どうしよう。
せっかく落ち着いてきた気持ちがまた乱れる。
オイラは一体どうしたいの?

わかんない。
もう、なんもかんも、全部わかんないよ。

また涙がダーッと出て来る。

すぐにまたコールが入った。
今度こそ、ちゃんと応答しなくちゃ。
必死で画面をタップした。


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