テキストサイズ

夜の影

第9章 ショウ

【翔side】

やだっ、って思って。
俺は思わず、サトシに抱きつく。

俺がここでやめるって言ったら。
そしたら、あんたとはこれっきりなんだろ?

わかるよ。
きっとあんたは、外で俺に会ったって絶対に無視する。

何もなかったことにするんだろ?

一度も会ったことが無いみたいに。
知らんぷりするんだろ?





やだよ。
絶対に喋んない。





悔しくて抱きついたまま、頭を左右にぶんぶんと振った。

「ショウ」

やだ。

「自分から堕ちることはないんだ」

やだって。

「やり直せるから
こだわってるものを手放しな」

やめてよ、涙が出て来るだろ。

「お前が大切に思ってる家族とか恋人とか?
お前が辛い思いをして喜ぶと思うか?
誰かのために自分を売ろうとしてるんなら」

やだ、って言ってんだろっ!

実際には口に出せないから、心の中で叫んで。
サトシにこれ以上喋らせないように、思いっきり噛みつくみたいに キ ス をした。





サトシはどうするの?
そんな虚しいところに居るサトシは?

あんたは、そこに留まるんだろっ?

「…っ…んっ…」

俺、あんたと離れたくない。

「んんっ…うっ…」

離れたくないよ。






「うっ…っ…」

息が詰まって、胸が苦しい。

じゃぁ、どうすればいいの?
誰か、教えてよ。





サトシに両手で頬を押さえられて。
無理やり力づくで顔を引きはがされた。

「うっ…うぅっ…」

「お前は泣き虫だなぁ」

違います。
俺は今まで、人前で泣いたことなんてない。

子供の頃に迷子になった時だって、ちゃんと自分で迷子センターに行くような。
そういうガキだったんだ。





「まいったなぁ…」

サトシが本当に困ったみたいに言うから、また、ぎゅうううって抱きついてやった。

優しい手が俺の頭を抱いて。

ぽんぽん、ってしてた。








ストーリーメニュー

TOPTOPへ