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夜の影

第9章 ショウ

【翔side】

「ショウ、やめてもいいんだぞ」

なにが?

「お前が一言話せば、ここから出られる
仕込みの途中で気が変わるやつなんか、結構いるんだ
無理に続けなくていい」

サトシの口調は穏やかだったけど、俺はびっくりした。

思わず体を離して、正面からサトシを見る。





サトシは、静かな顔をしていた。

同情も、憐れみも、怒りや苛立ちも何も無くて。
どこか遠くの景色を見てるみたいな顔をしてる。

「あのな
やってみて分かったと思うけど
男同士で 繋 が る って、不自然なことなんだ
吐 き 出 す のは気持ち良くたって
入 れ ら れ る のは辛かっただろ?
相手に対して愛情がないのに出来ることじゃないんだ」

俺は続きの言葉を聞くために、ただじっと、サトシの顔を見てた。

会ってからずっと、サトシは口が悪くて。

俺はからかわれてばかりいたけど。

多分、何か大事なことを言われるんだと思った。





「金のため、とか、目的のため、って
割り切ってやればいいって思ってもさ?
出来ないことはないよ?
けど、そのうち
自分がすり減ってくような気がしてくる
奪われるばかりで自分が空っぽになってくの
虚しくて…何もない」





パシャッって俺の肩にお湯を掛けながら。
サトシの目が細くなった。

ちょっと笑ってみせて、さりげなく言おうとしてるけど。
恐らく、この人の本音…。

自分の経験からくる実感を話してる。





「お前はまだ戻れる
帰る場所が無いって、言うかもしんないけど
家とか学校とか、職場が無いことと
戻る世界がわからなくなることは全然違う
一言、言えばいいんだ
やめる、って」





え……?





「もうやめる、って言いな?」

言って、サトシは、またちょっと笑った。







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