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夜の影

第10章 サトシ

【智side】

ショウにどんな理由があって 躰 を売ろうとしてるのか、俺は知らない。

わかったのは、酷く傷ついてるってことと。
仕込みをやめる気がない、ってことだけだ。

あんな風にしがみついてこられると、本当にまいる。
まるで、捨てないでくれって、言われてるみたいだった。





とにかく落ち着かせようと思って、しばらく湯船に浸かったままで。

ショウに「わかったから」とかなんとか、声をかけてて。

時々鼻をすんっと鳴らしながら、泣いてるのが何とも可愛くて。

愛しい気がして。

腕の中に納まってる 躰 を撫でていたら、こっちがのぼせた。





「あ~、ショウ、ごめん
俺、のぼせたかも」

パシャッと音を立てて、ショウが離れる。

何を思ったのか、半分立ち上がって、俺の頭を自分の胸に抱いた。

「いいから、おまえはゆっくり動きな
そんで、出来たら俺のこと立たせてくれる?」

言われた通りに俺を立たせてくれたから、先に外へ出た。

「ちゃんと洗ってから出て来いよ…」

ふふっ。

俺が言ったら、大真面目にうんうん、って頷いてやんの。





あ~。

やれやれ…。

こりゃあ、駄目だな。





洗面台の前に座り込んで、ショウが使うシャワーの音を聞きながらボーっと考えた。

そういや、あいつもさっき、ここで一人で歯を磨いて。

俺の前に戻ってきたら、様子がおかしくなってた。

薄いガラスのドア一枚のことなのに。
一人になると、ろくでもないことを考え始めるもんなんだな、と思う。







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