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夜の影

第11章 The first man

【翔side】

風呂から出ると、サトシは洗面台の前に座り込んだままで。

俺を見上げて、困ったような顔でふにゃっと笑った。

この人、昨日、氷を齧ってたし、貧血持ちなんじゃないのかな…。

心配になって、向かい合わせにしゃがんで頬を両手で包み、親指で下目蓋を下げてみた。

「…何?」

真っ白。
やっぱり貧血持ちだ。
母が貧血症で、あまり丈夫じゃなかったからわかる。





「ショウ?」

サトシはあんまり自分のことを構うタイプじゃなさそうだし、食事とかテキトーにしてそう。

病院とか行ってるのかな。
鉄剤とか飲んでればいいけど…。

「おーい、ショウ君や」

もっと自分の躰を大事にしないと駄目だよ?

めっ!って思って、顔に力を入れてちょっと睨んでみる。

「へ?俺、なんか怒られてる?」

うん、って頷いたら、なんでぇ?と言って首をちょっと傾げた。

その仕草が可愛いなと思って笑えてきた。





これまでずっと、この人の方が優位に立ってるって言うか、俺のことを好きにしてて。

会ったばかりだけど、サトシは見た目に反して俺よりずっといろんな経験をしてる大人なんだな、って思って来たけど。

俺がサトシの世話を焼けることも、あるのかも、って。
思ったら嬉しかった。





多分、これまで俺たちは全く違う世界に生きてて、普通にそのままでいたらお互いに知り合うこともなかった人種だ。

昨日、サトシは俺のことを猫みたい、って言って笑ったけど。

俺が家猫なら、この人は山猫。
それとも、同じネコ科でもジャガーとか、チーターとか、もっと大型で。

しなやかで美しい、野生に生きる獣。

のぼせてちょっと弱ってる今だから、俺から触れても許される。





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