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夜の影

第11章 The first man

【智side】

「遺 言 だと思って聞け
カズのことは、もう気にするな
兄弟だからって生涯親密でいられる方が少ない
あの家を見ていればよくわかるだろう
カズの人生をお前が支える必要はない
お前はお前だけの相手を見つけて
ここで自分がしていたことはもう忘れろ」

「…………」

「この部屋はお前の名義にするが処分して構わない
まぁ、あって困るということもないだろう
新人の仕込みが終わる頃には全部片が付いている筈だ
あとはマツオカの指示に従え」

「カズは、知ってんの…?」

「あれは聡い
俺の躰のことは察しがついているだろう
カズも自立していい頃だ
全て終わったと判れば
あとは本人が決めるさ」

「冷てぇな…」





この人にとっては、自分が愛した姉の忘れ形見であるカズだって、足枷にはならないんだ。

カズがどんなに止めても、決めたことはやり遂げる。

「そうか?
責任も取れやしないのに
誰かの人生を背負うなんて傲慢な考えだ
寄り添ってやる時間もないしな」

治療しながらカズの親代わりになってやる道もあったのに。

アンタは自分の我を通すことを選んだんだろ。

「…冷てぇよ…」

鼻をすすり上げながら言ってる自分が情けない。
あと何回、会えるのか。
もう二度と、この人に抱かれることは無いんだ。





「アンタって、ホント酷い男…」

言ってやったら、俺の頭を抱く腕に力が入った。

「智、挨拶は?」

言われて蘇るのは、昔この人が俺に言ったこと。

俺が男との キ ス にいつまでも慣れないから。
キ ス なんて挨拶と同じだ、って。

眩暈がするような口づけの後でぼんやりしてると、いつも笑いながら言われた。
挨拶ぐらいでイチイチ意識を飛ばすな、って。

頭を両手で挟まれて上を向かされたから、肩から腕を首に回した。

もうこれが、最後の挨拶になるのかもしれない、って思いながら、貪るように キ ス をした。




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