テキストサイズ

夜の影

第11章 The first man



【智side】

「智」

いつまでも動かない俺を見上げてた社長が、苦笑いしながらゆっくりと立ち上がる。

いかにも億劫そうなその動きに、いつの間にそんなに進行していたのか、と思う。





何か目的があれば、生きる甲斐になるのかもしれない、と理屈をつけながら。

粛々と復讐を続ける二人の傍に居るのが、もうしんどくて。

何も生み出さないこの生活をいつまで続けるのかも、考える程虚しくて。

最近では極力事務所には近づかないように避けていた。





「相変わらずお前は声を出さないで泣く」

言って大きな手の平で、頬を拭ってくれる。
抱き寄せられたから、そのまま逆らわなかった。





昔から変わらない甘いトワレ。
洗練された立ち居振る舞い。

どこまでも自分勝手で、上からの物言いばかり。

気まぐれに抱きしめてくれる冷たい手も。
言葉と キ ス で俺を翻弄した 唇 も。

他の人には絶対にないもので。

好きだった。





ストーリーメニュー

TOPTOPへ