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夜の影

第12章 愚か者

【翔side】

サトシが出て行ったあと、玄関ドアがゆっくり閉まる音を聞きながら、なんとなくそのまま廊下の向こうを眺めていた。

部屋の白い壁紙に、窓から差し込むネオンの灯りが色を付けている。

文字が点滅しているのか、青と黄色が一定時間で切り替わって、そこそこ綺麗だった。

昨日も同じ灯りが差してたんだろうけど、やってる最中には気がつく余裕もなかったっけ…。

二宮君がPCのキーボードを叩く音が背中から聞こえてて。
仕事してるみたいだし、話すことも特に思いつかないし。

することもないからベッドで眠ってしまおうかとも思ったけど、サトシに帰って来るまでリビングにいろ、って言われたから。

俺はしょうがなく床に座ったままでソファにもたれてる。

何しに行ったんだろ…仕事の話かな…。

長くかかるんだろうか…。





「コーヒーと紅茶、どっちがいいですか?」

突然、二宮君から声をかけられたから驚いた。

「…………」

「コーヒー?」

振り向くと、二宮君がPC画面から目を離して、こっちを見ていた。

どっちでも良かったから、取りあえず頷くと、可笑しそうに笑われた。

「……?…」

「何でもないです」

馬鹿にされてるのかな、と思ってちょっと面白くなかった。

彼から顔を背けて、また、玄関の方へ視線をやる。

「気に障ったならごめんなさい

仕込みが始まると、新人はやっぱり言葉を忘れてしまうんだなと思って

翔さんだけじゃないんです、みんなそうなの
バッチとの関係に集中するんでしょうね

バッチを組んだ人達ってやっぱり独特だから
俺から見ると、ちょっと羨ましくて

…言葉で伝わらないことって、一杯あるでしょ?」

振り返って彼を見ると、二宮君はちょっと困ってるみたいに見える顔で笑ってた。

ふうん…、別に意識してなかったけど…新人って皆そうなんだ。

そう言えば昨日も、羨ましいって言ってなかったか?

キッチンへ向かう二宮君の後姿を、ぼーっと見送って。

ソファの座面に手枕をついて頭を乗せたまま、また、ぼんやり玄関の方を見ていたら、コーヒーのいい香りが漂って来た。

しばらくしてトレーを手に戻ってきた二宮君が、俺の前にカップを置くと、窓際まで歩いていってカーテンを閉める。

壁の色がなくなった。





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