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夜の影

第12章 愚か者

【翔side】


段々意識がはっきりしてくる。

自分がやらかしたことも思い出した。



サトシ、俺のことで二宮君を怒ってるの?

俺が悪いんだよ、突き飛ばしたんだから。

そんなに冷たい声を出さないで。



「…俺は智に何を言われても平気だよ

ノリユキ兄さんが心残りのないように
自分に出来ることなら何でもやる

玉も使うし、智も使う

責められても構わない」



俺の頬から額に移動して、髪を撫でていたサトシの手が止まった。

触れている肌から伝わるサトシの憤り。

けれど、続くサトシの声は淡々として硬いばかりだった。



「お前は勘違いをしている

アイツはお前と俺のことは遠ざけておきたいんだ
安全なところに置いたまま関わらせたくない

だから俺を呼びよせただけだ

俺達が関わることは望んでない」



「智には分からないよっ!

あの人は俺より智のことを特別に思ってる
俺には絶対に手を出そうとしないっ

俺のことは母さんの息子だから放っておけないだけなんだ!

智とは違う!!

俺にはもう、あの人しかいないのにっ

あの人しか…

だから…出来ることは何でもする

それで誰かを不幸にしても
憎まれても恨まれても構わない」



「カズ!」



サトシが立ち上がった気配がした。

空気が張り詰めてるのがわかる。

サトシが、悲しんでるのが分かる。



二宮君が、何かサトシを攻撃しようとしてる。

言わせたらいけない。

止めないと、と思うのに。

躰が動かない。



「智が嫌なら手伝ってくれなくてもいいよ

俺だって、翔さんには悪いと思ってる
利用することになってしまったし

翔さんの家のことはコクブンさんにお願いしてあるから
きちんと調べてくれる筈だから大丈夫

借金のこととか、
正式な手順で解決するには時間がかかるだろうけどね

多分、いずれ、翔さんは家に帰れるようになるよ

躰を汚す必要もない

離れ離れになった弟さんと妹さんとも
また一緒に暮らせるようになる

その時、智の居場所はあるの?

翔さんのこと随分気に入ってるようだけど
でも無理でしょ?

俺たちはとうに、真っ当な世界の人間じゃなくなってる

俺も智も、もう戻れないんだよ」



二宮君の声が泣いていた。







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