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夜の影

第13章 サヨナラ

【翔side】

ここに来て3日目。

何だか寝てばかりいるような気もするけど、人生の変わり目は特別に眠い、って話を聞いたことがあるから、多分俺の場合もそういう事なのかもしれない。

父の死から起きた一連の出来事を、きっと俺は自分の中で消化できてない。

現実を受け入れる為なのか、それとも現実逃避なのか、やたらと眠くて。

目が覚めたら朝だったから驚いた。



でも、サトシが同じ布団の中に居たから、ここがどこなのか、自分が何をしてるのかは思い出せたし。

ここはどこ?ワタシは誰?ってならないだけ、まだ正気を保ってるんだろう。



サトシは器用な質らしく、料理もしてくれて。

白いご飯と、豆腐とわかめの味噌汁に、鮭の焼いたのと、卵焼きを作ってくれた。

1コしか違わないのに、俺とはえらい違いだ。

手の平の上で豆腐を賽の目に切っているのを見た時は、驚愕した。

そんな怖いこと、良くできるなぁ、と思って。

一応俺も、乾燥わかめを戻したりとかは手伝ったけど。
あと、米も研いだけどね。

泡だて器で米をかき回そうとしたら、驚かれて、呆れ笑いされて。

結構、恥ずかしかった。



いいじゃんか、何かでこうしてるの見たんだよ。



むくれた俺の顔を指さしてサトシは増々笑った。

食材が全部コンビニで手に入ったのにも驚いたし。

大学生のくせに、俺には知らないことがいっぱいある。



で。



「ショウ、昨日の話、憶えてるか?」



朝食をとってる時、サトシに言われた。

昨日のことは憶えてたけど、いろいろやらかしたのもあって、肝心の話の内容はうろ覚えだった。

曖昧に頷いた俺を見て、サトシが説明してくれる。

借用証書が偽物の可能性があること。

立ち退き命令も疑わしいから、会社の顧問弁護士が調査してること。

いずれ、家に帰れる見込みであること。

とりあえず、家に戻れるまではここに居てもいいこと。



「そんでな、
事がハッキリするまで、仕込みは中止だ
だから喋ってもいいよ」



中止…。



何て返事をしたらいいのかわからなくて、俺は椀を持ったまま、魚の骨を取り除くサトシの綺麗な指を見つめてた。








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