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夜の影

第14章 Akira

【某国某氏】

シャワーを浴びて戻るとアキラはベッドで寝息を立てていた。

私は日本へ来るたびに新しい「Akira」に会うのを楽しみにしているが、今回の子は非常に品がある。

完全に紹介でのみ登録が出来る会員制のクラブ「Akatsuki」。

日本語で「夜明け」という意味だが、東の果てにあるこの国にふさわしい名だ。

そこに所属する青年たちは個別の名を持たず、全員が「Akira」と名乗る。

流石に真珠の国だ。

今回で3人目だが、どの子も期待を裏切らなかった。

まして今回の子は、私との相性が特別に良いようだ。

ヒガシヤマは見る目があるな。



手の平に吸いついてくるような肌理の揃った美しい肌に、トワレ無しでも十分に芳しい躰の匂い。

残念ながら、我が国にはこのような青年は居ない。

今回のアキラは少し舌ったらずで、切ない声で「Monsieur.」と呼ぶのが、特に魅力的だった。



「ん…ムシュ…?」



着替えてタイの角度を調節している時に、アキラから声がかかる。

怠そうに躰を起こそうとして、動きが途中で止まった。

久しぶりの日本で、つい羽目を外してしまったか。

無理をさせてしまった。



「いいからもう少し休んでいなさい
私はこれからヒガシヤマに会ってくる

一時間後に迎えをやるから食事に行こう
後でディナーのスーツを届けさせるから
支度をしていなさい」

「…はい、あの…」

「なんだね?」

「…いいえ」



アキラは小さく首を振って、遠慮がちに笑って見せた。

日本人のこういうところが、誤解される要因だな。

相手を先に思いやって自分の意見を言わない。

わが国でこれをやったら頭の働きが悪いと思われるんだが。



「私の前でははっきりものを言いなさい
何か心配なことがあるのかね?」

「はい、ムシュー
ニノミヤさんは、ご一緒にお出かけではないの?」

「ニノミヤ?
ああ、あれは留守番だ
今回彼が日本へ来ていることは内緒だからね」



言葉に嫌悪感が滲んでしまうのが自分でもわかった。







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