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闇に咲く花~王を愛した少年~

第5章 闇に散る花

 もう、生きていたくない。こんな穢れたままの身体で、あの男にさんざん慰み者にされた自分を光宗に見せたくない。
 だが、死は許されない。あの男は誠恵の死をけして許しはしない。〝任務〟を遂げるまでは、唯一の安息を得られる手段としての死さえ、自分には許されないのだ。
 誠恵は掛け衾(ふすま)を頭からすっぽりと被ると、枕に顔を押し当て声を殺して泣いた。
 
 誠恵が久しぶりの里帰りから戻ってきたのとほぼ同じ時刻。
 大殿では、光宗が柳内官の訪問を受けていた。ここのところ、柳内官は留守が多い。
 大殿付き内官である柳内官は普段、光宗のすぐ傍に控えており、どこにゆくにも付き従う。だが、最近は他に用事があるらしく、昼間は姿を見せない。代わりに別の内官が大殿に詰めていた。
「柳内官、話とは何だ?」
 既に夜は更け、国王の就寝の時間が近づいていた。 
「殿下、怖れながら、お人払いをお願い致します」
 柳内官が頭を下げると、光宗が頷く。
 国王に促され、傍に控えていた内官は恭しく一礼した後、静かに出ていった。
「さて、これで予と二人きりになったぞ」
 光宗が屈託なく言うのに、柳内官は小声で話し始めた。
「殿下のお怒りを買うのを承知で、ご報告させて頂きます」
「不愉快になる話なら、止めてくれ。緑花についての話もするな」
 早くも不機嫌になった光宗にも柳内官は頓着しなかった。
「私はここ半月ばかり、町へ出ておりました」
 光宗の眼付きが警告するように険しくなった。
「どういうことだ? 宮殿の外に良い女でもできたのか」
 戯れ言めいた口調とは裏腹に、眼が笑っていない。
「そう申せば、監察部の内官たちもここ半月は町に出て何かを探っているようだな。一体、何を調べている? 予は何の命も出した憶えはないが」
 柳内官は丁重に返した。

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