
闇に咲く花~王を愛した少年~
第5章 闇に散る花
恭しく応える柳内官に、王は怒鳴った。
「身内の自慢など、この際、どうでも良い」
いかなるときも冷静でけして取り乱すことのない光宗がここまで感情を露わにするのは珍しい。
つまりは、それほどまでに若い王の御心を高ぶらせ揺さぶる事柄がこの報告書には記されているのだ。
無理もないと、柳内官でさえ思う。
この半月間、都を駆けめぐり集めた情報の数々は、あまりにも意外であり衝撃的であった。
まず、張緑花の素姓について、彼女は都の外れ月華楼という妓楼の妓生であった。月華楼の女将香月には実の娘同然に可愛がられている。十で辺境の貧しい農村から売られてきて、香月に買われた。源氏名は翠玉というそうだ。そして、どういうわけか、半年ほど前に急に月華楼から姿を消している。
この緑花の生い立ちは、後宮女官として出仕する際、届け出た書類に記されたこととは全く食い違う。
光宗もまた、緑花は貧しい両班の家門に生まれ育ち、妓楼に売られたのだと当人から聞いた。初めての客を取らされそうになり、怖くなって妓楼から逃げ出したのだと緑花は話していた。
更に報告書は愕くべき事実を告げていた。
緑花が領議政孫尚善と裏で繋がっているというのだ!
光宗にとって、これはある程度、予測していたことではあった。だが、こうして証拠が揃ってみると、自分が考えていた以上の打撃を受けずにはいられなかった。
「実は、今日一日、私たちは月華楼の周辺を隈無く張っておりました」
龍内官の声が無情な現実を突きつける。
何と里帰りを願い出た緑花が赴いたのは両班の屋敷などではなく、月華楼であった。当然だろう、緑花は貴族の娘などではなく、貧しい百姓の娘だったのだから。しかも、賤しい妓楼お抱えの娼婦だというではないか。
だが、この次の話は更に若い王の心を抉った。
月華楼の一室で、緑花は孫尚善と関係を持っていたというのだった―。それも数時間もの間、二人は部屋に閉じこもりきりだったという。先に領議政が妓楼を出て、それから一時間ほど後に緑花が出ていった。
「身内の自慢など、この際、どうでも良い」
いかなるときも冷静でけして取り乱すことのない光宗がここまで感情を露わにするのは珍しい。
つまりは、それほどまでに若い王の御心を高ぶらせ揺さぶる事柄がこの報告書には記されているのだ。
無理もないと、柳内官でさえ思う。
この半月間、都を駆けめぐり集めた情報の数々は、あまりにも意外であり衝撃的であった。
まず、張緑花の素姓について、彼女は都の外れ月華楼という妓楼の妓生であった。月華楼の女将香月には実の娘同然に可愛がられている。十で辺境の貧しい農村から売られてきて、香月に買われた。源氏名は翠玉というそうだ。そして、どういうわけか、半年ほど前に急に月華楼から姿を消している。
この緑花の生い立ちは、後宮女官として出仕する際、届け出た書類に記されたこととは全く食い違う。
光宗もまた、緑花は貧しい両班の家門に生まれ育ち、妓楼に売られたのだと当人から聞いた。初めての客を取らされそうになり、怖くなって妓楼から逃げ出したのだと緑花は話していた。
更に報告書は愕くべき事実を告げていた。
緑花が領議政孫尚善と裏で繋がっているというのだ!
光宗にとって、これはある程度、予測していたことではあった。だが、こうして証拠が揃ってみると、自分が考えていた以上の打撃を受けずにはいられなかった。
「実は、今日一日、私たちは月華楼の周辺を隈無く張っておりました」
龍内官の声が無情な現実を突きつける。
何と里帰りを願い出た緑花が赴いたのは両班の屋敷などではなく、月華楼であった。当然だろう、緑花は貴族の娘などではなく、貧しい百姓の娘だったのだから。しかも、賤しい妓楼お抱えの娼婦だというではないか。
だが、この次の話は更に若い王の心を抉った。
月華楼の一室で、緑花は孫尚善と関係を持っていたというのだった―。それも数時間もの間、二人は部屋に閉じこもりきりだったという。先に領議政が妓楼を出て、それから一時間ほど後に緑花が出ていった。
