
闇に咲く花~王を愛した少年~
第5章 闇に散る花
一瞬、あまりの衝撃に息が止まるかと思った。
「月華楼という廓は普通の遊廓ではなく、男娼ばかりを抱えた妓楼だとか。恐らくは緑花も眉目良きところを見込まれて、買われたのでしょう。何せ、あれほどの美貌にございます。これには私も流石に仰天致しました。まんまと最後まで緑花が女だと騙されるところにございました」
滔々と述べ立てる柳内官に向かい、光宗は低い声で呟いた。
「もう良い」
「殿下?」
「もう良いと言ったのだ。それだけ調べ上げれば十分であろう」
「では、緑花の処分をどう致しますか? 畏れながら世子邸下を殺めようとしたのも、恐らくは緑花の仕業と思えます。世子邸下を狙ったというだけで死に値する大罪にございますが、殿下のお薬に毒を仕込んだ罪も加えて、ついでに裏で緑花を操っていた領議政も片付けてはいかがにございましょう。証拠は十分ございますゆえ、いかの古狸でも罪は逃れようはございません」
光宗の漆黒の瞳に怒りの焔が燃え上がった。
「緑花の処分は追って決める。領議政についても同様だ。世子の外祖父でもあり大妃の父でもある男をそう易々と罪には問えん」
執務机では、龍を浮き彫りにした蝋燭が燃えている。その焔に照らされた光宗の横顔は石の像と化したかのようだ。
「殿下―」
「もう良いと幾ら言ったら、判るのだ? 今は何も考えたくない、いや、考えられぬ。頼むから、一人にしてくれ」
王のあまりに烈しい怒りと絶望に直面し、柳内官はかすかな戸惑いと大きな衝撃を受けた。
彼は自分が喋り過ぎたと思うより、王の緑花に対する想いの深さを知り、愕然とした。
「月華楼という廓は普通の遊廓ではなく、男娼ばかりを抱えた妓楼だとか。恐らくは緑花も眉目良きところを見込まれて、買われたのでしょう。何せ、あれほどの美貌にございます。これには私も流石に仰天致しました。まんまと最後まで緑花が女だと騙されるところにございました」
滔々と述べ立てる柳内官に向かい、光宗は低い声で呟いた。
「もう良い」
「殿下?」
「もう良いと言ったのだ。それだけ調べ上げれば十分であろう」
「では、緑花の処分をどう致しますか? 畏れながら世子邸下を殺めようとしたのも、恐らくは緑花の仕業と思えます。世子邸下を狙ったというだけで死に値する大罪にございますが、殿下のお薬に毒を仕込んだ罪も加えて、ついでに裏で緑花を操っていた領議政も片付けてはいかがにございましょう。証拠は十分ございますゆえ、いかの古狸でも罪は逃れようはございません」
光宗の漆黒の瞳に怒りの焔が燃え上がった。
「緑花の処分は追って決める。領議政についても同様だ。世子の外祖父でもあり大妃の父でもある男をそう易々と罪には問えん」
執務机では、龍を浮き彫りにした蝋燭が燃えている。その焔に照らされた光宗の横顔は石の像と化したかのようだ。
「殿下―」
「もう良いと幾ら言ったら、判るのだ? 今は何も考えたくない、いや、考えられぬ。頼むから、一人にしてくれ」
王のあまりに烈しい怒りと絶望に直面し、柳内官はかすかな戸惑いと大きな衝撃を受けた。
彼は自分が喋り過ぎたと思うより、王の緑花に対する想いの深さを知り、愕然とした。
