
闇に咲く花~王を愛した少年~
第5章 闇に散る花
柳内官の下がった後、光宗は奈落の底にいた。
これで、すべては辻褄が合った。
緑花が何故、自分を拒み続けてきたか、その理由が知れた。柳内官の報告を途中までしか聞いていなかった時点では、緑花が領議政の女だから、拒んでいたのだと勘違いしたが―。
よもや、あの可憐な少女が少年であったとは、こうなれば、もう安っぽい芝居よりも更に始末が悪いではないか!
あの娘、もとい、男が光宗に抱かれようとしなかったのは、褥を共にすれば、秘密を暴露してしまうからだ。それを自分は緑花の少女らしい恥じらいと受け止め、真剣に悩み、自分のどこがいけないのかと顧みた。
全く、笑える。笑いすぎて、頭がおかしくなりそうだ。
朝鮮王朝史上、最大の暗君・暴君と呼ばれている燕山君ですら、これほどの喜劇は演じたりしなかったことだろう。なのに、自分で言うのも何だが、〝聖君〟と民から呼ばれるこの身がたった一人の少年に心奪われ、良いように躍らされていたとは。
自分にとっては初めての恋だった。後宮には幾千もの女官がいるが、心動かされ、本気で愛したのは張緑花ただ一人だったのだ。だが、そんな女は、どこにもいなかった。光宗は幻の女に恋をし、ありもしない夢を見ていたにすぎなかった。
光宗は低い声で笑った。
おかしすぎて、涙が出る。くっくっと低い声で笑いながら、十九歳の若き国王は頬を涙で濡らしていた。
更に三日を経た夜、国王光宗は突如として女官張緑花に夜伽を仰せ出(いだ)された。緑花はその夜、自室に光宗を迎えることになった。
その前に、緑花は湯浴みを終えた。たっぷりと湯を湛えた湯舟に真紅の薔薇の花びらが浮いた風呂は、今宵、国王の褥に侍る女人のために特別に用意されたものだ。
通常は数人の女官の介添えによって湯浴みが行われる。が、緑花が〝幼少時に患った水疱瘡の跡が酷く残っているから〟と、身体を他人に見られるのを厭うたため、結局、一人で湯浴みを終えることになった。
湯浴みを済ませ、女官たちによって美しく化粧された緑花は白い夜着で国王を待つ。
光宗は夜がかなり更けても、姿を現さなかった。
これで、すべては辻褄が合った。
緑花が何故、自分を拒み続けてきたか、その理由が知れた。柳内官の報告を途中までしか聞いていなかった時点では、緑花が領議政の女だから、拒んでいたのだと勘違いしたが―。
よもや、あの可憐な少女が少年であったとは、こうなれば、もう安っぽい芝居よりも更に始末が悪いではないか!
あの娘、もとい、男が光宗に抱かれようとしなかったのは、褥を共にすれば、秘密を暴露してしまうからだ。それを自分は緑花の少女らしい恥じらいと受け止め、真剣に悩み、自分のどこがいけないのかと顧みた。
全く、笑える。笑いすぎて、頭がおかしくなりそうだ。
朝鮮王朝史上、最大の暗君・暴君と呼ばれている燕山君ですら、これほどの喜劇は演じたりしなかったことだろう。なのに、自分で言うのも何だが、〝聖君〟と民から呼ばれるこの身がたった一人の少年に心奪われ、良いように躍らされていたとは。
自分にとっては初めての恋だった。後宮には幾千もの女官がいるが、心動かされ、本気で愛したのは張緑花ただ一人だったのだ。だが、そんな女は、どこにもいなかった。光宗は幻の女に恋をし、ありもしない夢を見ていたにすぎなかった。
光宗は低い声で笑った。
おかしすぎて、涙が出る。くっくっと低い声で笑いながら、十九歳の若き国王は頬を涙で濡らしていた。
更に三日を経た夜、国王光宗は突如として女官張緑花に夜伽を仰せ出(いだ)された。緑花はその夜、自室に光宗を迎えることになった。
その前に、緑花は湯浴みを終えた。たっぷりと湯を湛えた湯舟に真紅の薔薇の花びらが浮いた風呂は、今宵、国王の褥に侍る女人のために特別に用意されたものだ。
通常は数人の女官の介添えによって湯浴みが行われる。が、緑花が〝幼少時に患った水疱瘡の跡が酷く残っているから〟と、身体を他人に見られるのを厭うたため、結局、一人で湯浴みを終えることになった。
湯浴みを済ませ、女官たちによって美しく化粧された緑花は白い夜着で国王を待つ。
光宗は夜がかなり更けても、姿を現さなかった。
