
闇に咲く花~王を愛した少年~
第5章 闇に散る花
問いの意味が判らないというように小首を傾げる誠恵の表情は、あどけなくさえあった。
時には純真無垢な少女の顔を持ち、時には色香溢れる妖艶な熟女の顔を持つ。そうやって、くるくると表情を変え、男の心を掴み意のままに操っていく魔性の女。
それが、張緑花という少女、いや、少年だ。
三日前、柳内官から一部始終の報告を受けた光宗はその夜、大殿から緑花の許へ渡る途中も二度とあの女(男)に騙されるものかと息巻いていた。
だが、久しぶりに緑花の顔を見ると、どうにも柳内官の話がすべて偽りのような気がして、緑花の調子に乗せられてしまう。もちろん、内侍府の調査に間違いなど、あろうはずがない。義禁府ですら調べ得ないこと、手に負えぬ事件でも内侍府の監察部に任せれば、忽ちにして片付く―そう言われるほどの優秀な部隊なのだ。
今もつい、緑花の顔を見た嬉しさのあまり、親しく声をかけてしまったことを悔いている。
一方、誠恵は、急変した光宗の態度に嫌な予感を抱いていた。とはいっても、別にひと月前のように乱暴されるとか、その手の危機を感じたわけではない。ただ、光宗の自分を見る眼が以前と違って冷めたものであることに気付いたのだ。
ひと月前のことがあるだけに、突然の夜ののお召しを受けたときは不安でならなかった。が、現れた光宗の表情も態度も穏やかで、以前の誠恵がよく知る光宗に戻っていたので、ホッと胸撫で下ろしたばかりだった。
ゆえに、再び冷ややかな態度を取り始めた光宗を目の当たりにして、衝撃は大きかった。
急に黙り込み、口を引き結んだ光宗を見ている中に、誠恵の心に不安が漣のように湧き立つ。
もしや、殿下は我が身が領議政の手先であることにお気づきになったのでは―。
まさかとは思うが、その可能性が全くないとはいえない。
そろそろ潮時なのかもしれない、と、誠恵は考えた。四日前、領議政孫尚善に月華楼で陵辱の限りを尽くされて以来、まだ香月からは何の連絡もない。
だが、このまま手をこまねいていて良いはずがないのだ。尚善はこれ以上ないというほど残酷なやり方で裏切った誠恵を罰した。
―何度でも抱いて、私のことしか考えられなくしてやる。
時には純真無垢な少女の顔を持ち、時には色香溢れる妖艶な熟女の顔を持つ。そうやって、くるくると表情を変え、男の心を掴み意のままに操っていく魔性の女。
それが、張緑花という少女、いや、少年だ。
三日前、柳内官から一部始終の報告を受けた光宗はその夜、大殿から緑花の許へ渡る途中も二度とあの女(男)に騙されるものかと息巻いていた。
だが、久しぶりに緑花の顔を見ると、どうにも柳内官の話がすべて偽りのような気がして、緑花の調子に乗せられてしまう。もちろん、内侍府の調査に間違いなど、あろうはずがない。義禁府ですら調べ得ないこと、手に負えぬ事件でも内侍府の監察部に任せれば、忽ちにして片付く―そう言われるほどの優秀な部隊なのだ。
今もつい、緑花の顔を見た嬉しさのあまり、親しく声をかけてしまったことを悔いている。
一方、誠恵は、急変した光宗の態度に嫌な予感を抱いていた。とはいっても、別にひと月前のように乱暴されるとか、その手の危機を感じたわけではない。ただ、光宗の自分を見る眼が以前と違って冷めたものであることに気付いたのだ。
ひと月前のことがあるだけに、突然の夜ののお召しを受けたときは不安でならなかった。が、現れた光宗の表情も態度も穏やかで、以前の誠恵がよく知る光宗に戻っていたので、ホッと胸撫で下ろしたばかりだった。
ゆえに、再び冷ややかな態度を取り始めた光宗を目の当たりにして、衝撃は大きかった。
急に黙り込み、口を引き結んだ光宗を見ている中に、誠恵の心に不安が漣のように湧き立つ。
もしや、殿下は我が身が領議政の手先であることにお気づきになったのでは―。
まさかとは思うが、その可能性が全くないとはいえない。
そろそろ潮時なのかもしれない、と、誠恵は考えた。四日前、領議政孫尚善に月華楼で陵辱の限りを尽くされて以来、まだ香月からは何の連絡もない。
だが、このまま手をこまねいていて良いはずがないのだ。尚善はこれ以上ないというほど残酷なやり方で裏切った誠恵を罰した。
―何度でも抱いて、私のことしか考えられなくしてやる。
