
闇に咲く花~王を愛した少年~
第5章 闇に散る花
以前の緑花なら、こんなことは絶対にしなかったはずだ。光宗が違和感を憶えているのも知らず、緑花は媚を売るように身をすり寄せ、潤んだ瞳で見上げてくる。
思わずその深い澄んだ瞳に吸い込まれ、溺れそうな自分を王は戒める。
現に、王が夜着の前で結んだ紐を解こうとすると、かすかに身を捩り、王の手をほっそりとした小さな手で軽く押さえた。
光宗の顔を嫋嫋とした様子で見上げ、恥ずかしげに頬を染める。光宗が緑花を見下ろすと、〝いや〟とうつむいて首を振り、光宗の胸に頬を押し当ててくる。それは男なら誰もが思わず守ってやりたいと思う―仔猫がしきりに甘えるような仕種であった。
―売女(ばいた)め。
光宗は声高に罵ってやりたい衝動を懸命に抑える。
多分、緑花は今夜、王が彼女を抱くと信じて疑っていないだろう。もしかしたら、この機に乗じて、ひと息に自分を殺すつもりかもしれない。刺客の緑花にとって、今夜はまたとない機会だ。夜着を脱がされれば、男であることが露見するのが判っていて夜伽を務めようとするからには、決死の覚悟でこの場に臨んでいたとしてもおかしくはない。
その裏をかいてやるのも面白いかもしれない。本当はここに来るまでは問いつめ、領議政との拘わりや素姓を偽っていたこともすべてを白状させてやるつもりだった。が、寝所に呼び寄せておいて、冷淡な態度を取り続けて緑花の心を揺さぶってみるのも一興かもしれない、などと意地の悪いことを考えたのである。
―この女が悪いのだ。
王は半ば自棄のような気持ちでそう結論づける。
王は緑花を腕に抱き褥に横たわった。眼を閉じたのまでは良かったが、緑花の心を揺さぶるどころではない。
我が腕に抱いているのが女ではなく正真正銘の男であると知りながら、光宗は緑花の存在を意識するのを止められなかった。心は醒めているはずだと自分を叱ってみるが、身体は正直に反応し、下腹部が固くなってゆく。あまりに固くなりすぎて痛いほどになり、光宗に背を向ける格好で抱いている緑花のやわらかな身体に大きくなりすぎた彼自身が当たっているのではと気が気ではない。
―馬鹿な。今、腕に抱いているのは女ではない、男なのだぞ?
思わずその深い澄んだ瞳に吸い込まれ、溺れそうな自分を王は戒める。
現に、王が夜着の前で結んだ紐を解こうとすると、かすかに身を捩り、王の手をほっそりとした小さな手で軽く押さえた。
光宗の顔を嫋嫋とした様子で見上げ、恥ずかしげに頬を染める。光宗が緑花を見下ろすと、〝いや〟とうつむいて首を振り、光宗の胸に頬を押し当ててくる。それは男なら誰もが思わず守ってやりたいと思う―仔猫がしきりに甘えるような仕種であった。
―売女(ばいた)め。
光宗は声高に罵ってやりたい衝動を懸命に抑える。
多分、緑花は今夜、王が彼女を抱くと信じて疑っていないだろう。もしかしたら、この機に乗じて、ひと息に自分を殺すつもりかもしれない。刺客の緑花にとって、今夜はまたとない機会だ。夜着を脱がされれば、男であることが露見するのが判っていて夜伽を務めようとするからには、決死の覚悟でこの場に臨んでいたとしてもおかしくはない。
その裏をかいてやるのも面白いかもしれない。本当はここに来るまでは問いつめ、領議政との拘わりや素姓を偽っていたこともすべてを白状させてやるつもりだった。が、寝所に呼び寄せておいて、冷淡な態度を取り続けて緑花の心を揺さぶってみるのも一興かもしれない、などと意地の悪いことを考えたのである。
―この女が悪いのだ。
王は半ば自棄のような気持ちでそう結論づける。
王は緑花を腕に抱き褥に横たわった。眼を閉じたのまでは良かったが、緑花の心を揺さぶるどころではない。
我が腕に抱いているのが女ではなく正真正銘の男であると知りながら、光宗は緑花の存在を意識するのを止められなかった。心は醒めているはずだと自分を叱ってみるが、身体は正直に反応し、下腹部が固くなってゆく。あまりに固くなりすぎて痛いほどになり、光宗に背を向ける格好で抱いている緑花のやわらかな身体に大きくなりすぎた彼自身が当たっているのではと気が気ではない。
―馬鹿な。今、腕に抱いているのは女ではない、男なのだぞ?
