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闇に咲く花~王を愛した少年~

第1章 変身

 もっとも、七年前、兄王の突然の崩御に見舞われた時、光宗はわずか十四歳の若さであった。光宗の生母、仁彰王后は光宗が四歳のときに亡くなっていたため、光宗にとっては義母に当たる大王(テーワン)大妃(テービ)(先々代つまり永宗・光宗の父仲宗の継妃、実子はいない)が垂簾(すいれん)の政(まつりごと)を行い、光宗が十六歳になるのを待って親政が始まった。
 ゆえに、本当の意味で光宗の治世になって、まだ日は浅い。それでも、優れた為政者としての資質を生まれながらに持つ光宗を聖君として慕う民は朝鮮中に溢れている。
 若き王の下、この国は今、まさに最盛期を迎えようとしていることは誰の眼にも明白だ。
 そんな王を何故、殺す必要があるというのだろう?
「愚かで無能な民たちは何も知らぬくせに、世論に躍らされる。先代の永宗さまも今の国王に劣らぬ優れたお方であられた。あのように突如として病に倒れられるとは、さぞやご無念であられたに違いない」
 光宗が親政を始めたときに、真っ先に掲げた目標が民の負担を少しでも軽減することであったという。国王自らが華美贅沢を慎み、大臣を初めとする両班たちにもそれを命じた。
 だが、先の永宗のときは、どうだっただろう。一部の特権階級だけが利を貪り、国王や両班たちは民の困窮を知ろうともせず、日夜、享楽に耽った。自分たちの口にするすべてのものが民の血と涙の産物であることを考えもせず、ひたすら搾取しようとしたのだ。その結果、民心は大いに乱れ、民からは王や大臣に対する怨嗟の声がひきもきらなかった。
 今や暗雲垂れ込めた時代は過ぎ去り、漸くこの国にも穏やかな春が訪れたのだ。光宗はその慈悲の心と卓越した政治力で朝鮮という国を照らす太陽に他ならなかった。その太陽をこの男は消せというのか。
「先代の永宗さまは、私の娘聟に当たる方だった。今の東宮は、娘の生んだ孫だ」
 誠恵は思わず尚善を凝視した。
 領議政はこの国では最高位の官職で、朝廷の頂点に立つ重い立場だ。更に、この男の娘は先代永宗の王妃であり、今は大妃(テービ)と呼ばれる尊い身分にある。そして、彼の外孫が世子(セジヤ)の座についている―。
 それだけで、誠恵は尚善が光宗を殺す理由を察した。

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