闇に咲く花~王を愛した少年~
第2章 揺れる心
「取るに足らぬ私の身の上話など、到底、お聞かせするようなものではございませぬ。明日の朝には、このお屋敷を出て参りますゆえ、どうか、何もこれ以上、お訊きならないで下さいませ」
と、王は慌てたように言った。
「私は何も、そなたに出てゆけと申したのではない。もし、名家の令嬢でありながら、屋敷を出ねばならぬような理由があるのであれば、何かそなたの力になってやれるのではないかと思うたまでのこと、話したくないのであれば、話さなくとも良い。伯父上には私の方からよく話しておくゆえ、好きなだけ、ここにいれば良いのだ」
誠恵は両手を組み、固く握り合わせると、眼に涙を浮かべた。
「旦那(ダーリー)さま、私は心苦しいのでございます。ただ居候になっているだけでは申し訳なくて、何かお手伝いさせて頂くことがあれば、させて頂きたいと左相(チヤサン)大(テー)監(ガン)にお願いしても、大切な客人ゆえと言われます。ゆえに、こうして、部屋で刺繍など致しておりました」
「それは、伯父上の仰せが当然だろう。私は、そなたを賓客としてもてなして欲しいと頼んだのだから」
誠恵は、うなだれる。
「拝見しましたところ、旦那さまは両班のご子息のようでいらっしゃいます。どうか、旦那さまのお力で私を女官として宮殿に上がれるように取りはからって頂けませぬか?」
「何と、女官になると?」
王の整った面に軽い愕きがひろがる。
誠恵の眼に大粒の涙が溢れた。―むろん、嘘泣きである。
「私には最早、女官になるしか、生きる道はございませぬ」
王が息を呑む気配が伝わってきた。
「何ゆえ、そのように思いつめるのだ? 伯父上がここを出てゆけとでも申したのか?」
顔色を変えた王を、誠恵は哀しげな眼で見つめた。
「いいえ、左相大監は、そのようなことは少しも仰ってはおりませぬ。私の一存にございます」
「では、何故―」
王は勢い込んで言いかけ、自らを落ち着かせようとでもするかのように声を落とした。
「そなたは知らぬかもしれないが、女官の宿命(さだめ)というものは厳しい。生半な気持ちでは務まらぬぞ」
物問いたげな眼を向けると、王が小さな吐息をつく。
と、王は慌てたように言った。
「私は何も、そなたに出てゆけと申したのではない。もし、名家の令嬢でありながら、屋敷を出ねばならぬような理由があるのであれば、何かそなたの力になってやれるのではないかと思うたまでのこと、話したくないのであれば、話さなくとも良い。伯父上には私の方からよく話しておくゆえ、好きなだけ、ここにいれば良いのだ」
誠恵は両手を組み、固く握り合わせると、眼に涙を浮かべた。
「旦那(ダーリー)さま、私は心苦しいのでございます。ただ居候になっているだけでは申し訳なくて、何かお手伝いさせて頂くことがあれば、させて頂きたいと左相(チヤサン)大(テー)監(ガン)にお願いしても、大切な客人ゆえと言われます。ゆえに、こうして、部屋で刺繍など致しておりました」
「それは、伯父上の仰せが当然だろう。私は、そなたを賓客としてもてなして欲しいと頼んだのだから」
誠恵は、うなだれる。
「拝見しましたところ、旦那さまは両班のご子息のようでいらっしゃいます。どうか、旦那さまのお力で私を女官として宮殿に上がれるように取りはからって頂けませぬか?」
「何と、女官になると?」
王の整った面に軽い愕きがひろがる。
誠恵の眼に大粒の涙が溢れた。―むろん、嘘泣きである。
「私には最早、女官になるしか、生きる道はございませぬ」
王が息を呑む気配が伝わってきた。
「何ゆえ、そのように思いつめるのだ? 伯父上がここを出てゆけとでも申したのか?」
顔色を変えた王を、誠恵は哀しげな眼で見つめた。
「いいえ、左相大監は、そのようなことは少しも仰ってはおりませぬ。私の一存にございます」
「では、何故―」
王は勢い込んで言いかけ、自らを落ち着かせようとでもするかのように声を落とした。
「そなたは知らぬかもしれないが、女官の宿命(さだめ)というものは厳しい。生半な気持ちでは務まらぬぞ」
物問いたげな眼を向けると、王が小さな吐息をつく。