
闇に咲く花~王を愛した少年~
第2章 揺れる心
「緑花、そなたは美しく賢く、そして優しい。そなたのような娘であれば、予が妻に迎えたとて、誰も何も言わぬかもしれぬな」
「そのような、あまりにも怖ろしいことでございます。私のような賤しい身分の者が殿下のお側に上がるなど、許されるはずがございませぬ」
誠恵は内心焦った。光宗をその色香で惑わせとは言われたものの、実際に寝所に侍ることになれば、正体を見破られ、男であると露見してしまう。それだけは避けねばならない。
「身分など関わりない。国王たる予が心から望むのだ。誰が異を唱えることができよう? それに、初めは妃としての位階も高いものは与えてはやれぬかもしれないが、手順を踏み、いずれは側室の中でも最高の嬪(ひん)の位につくことも可能だぞ?」
誠恵は烈しくかぶりを振った。
「滅相もなきことにございます」
ここで話題を変えた方が賢明だと判断した。
「殿下がご結婚なさらないのは、ご幼少の砌にお亡くなりあそばされた婚約者をひそかに想っての御事と皆が申しておりますが」
幾ら何でも踏み込みすぎる質問だとは承知していたが、誠恵も咄嗟に適当な話題が見つからなかったのだ。
言ってしまった後で、失言だったと気付いたが、もう遅い。流石に、光宗は無言だった。
「も、申し訳ございませぬ、私としたことが、何というご無礼なことを」
慌てたのは何も演技だけではなく、本当に狼狽えていたのだ。
静寂がやけに長い。永遠にも感じられる沈黙に押し潰されそうになったその時、唐突に光宗が沈黙を破った。
「皆がそのように申しておるようだな。だが、緑花。考えもみよ。確かに、早くに先立った許嫁を不憫には思っている。さりとて、ろくに話したこともなく、顔さえ定かではない昔の婚約者を幾ら何でも、いつまでも想い続けているというのは不自然ではないか?」
肯定も否定もできず、誠恵はただ黙って聞き入るしかない。
「予が妃を持たぬのは、無用の流血を避けるためだ」
光宗は淡々とまるで他人事(ひとごと)のように語る。
「そのような、あまりにも怖ろしいことでございます。私のような賤しい身分の者が殿下のお側に上がるなど、許されるはずがございませぬ」
誠恵は内心焦った。光宗をその色香で惑わせとは言われたものの、実際に寝所に侍ることになれば、正体を見破られ、男であると露見してしまう。それだけは避けねばならない。
「身分など関わりない。国王たる予が心から望むのだ。誰が異を唱えることができよう? それに、初めは妃としての位階も高いものは与えてはやれぬかもしれないが、手順を踏み、いずれは側室の中でも最高の嬪(ひん)の位につくことも可能だぞ?」
誠恵は烈しくかぶりを振った。
「滅相もなきことにございます」
ここで話題を変えた方が賢明だと判断した。
「殿下がご結婚なさらないのは、ご幼少の砌にお亡くなりあそばされた婚約者をひそかに想っての御事と皆が申しておりますが」
幾ら何でも踏み込みすぎる質問だとは承知していたが、誠恵も咄嗟に適当な話題が見つからなかったのだ。
言ってしまった後で、失言だったと気付いたが、もう遅い。流石に、光宗は無言だった。
「も、申し訳ございませぬ、私としたことが、何というご無礼なことを」
慌てたのは何も演技だけではなく、本当に狼狽えていたのだ。
静寂がやけに長い。永遠にも感じられる沈黙に押し潰されそうになったその時、唐突に光宗が沈黙を破った。
「皆がそのように申しておるようだな。だが、緑花。考えもみよ。確かに、早くに先立った許嫁を不憫には思っている。さりとて、ろくに話したこともなく、顔さえ定かではない昔の婚約者を幾ら何でも、いつまでも想い続けているというのは不自然ではないか?」
肯定も否定もできず、誠恵はただ黙って聞き入るしかない。
「予が妃を持たぬのは、無用の流血を避けるためだ」
光宗は淡々とまるで他人事(ひとごと)のように語る。
