闇に咲く花~王を愛した少年~
第2章 揺れる心
「妃を持てば、いずれ子が生まれる。さりながら、既に定まった世子がおるのだ。国王である予の王子の誕生は、世子を脅かす存在となろう。もし、予の息子が世子を越えて王位に座るようなことにでもなれば、予は亡くなられた兄上に顔向けできぬ。この国では、しばしば、王室で王位継承を巡って骨肉の争いが起きた。大抵は、予が即位したときのように、突然玉座についた王が我が子可愛さに当然位を譲るべき者に譲ろうとしなかったためだ」
「お言葉をお返しするようではございますが、この国の民は下々の者に至るまで、聖君と讃えられる殿下のお血筋に王統を継承して頂きたいと心より願っております」
誠恵の言葉に、光宗は首をゆるりと振る。
「民の声も大切ではあるが、王位継承については、予の心は既に定まっている。たとえ、これから何人の王子が予に生まれようが、予は兄上の子である世子に位を譲るつもりだ」
「ですが、殿下。畏れ多いことながら、先代さまの御世には、民たちからは上の方々をお恨みする声が絶えませんでした。なのに、殿下が御位におつきになられてからというもの、民心は安定し、都は活気に溢れております。それほど徳のある殿下を民は皆、一途にお慕いしているのです」
出すぎた言葉である。一介の女官が口にして良い科白ではない。思慮深いといわれる光宗でも、これは怒るだろうと覚悟しての発言だった。
どうもこの男といると、自分が暗殺者であることを忘れてしまいそうになる。誠恵は本来の自分の使命を忘れ、光宗に惹かれそうになる自分が怖かった。
「そなたは予を買い被り過ぎている」
王の手が伸び、誠恵の細い手首を掴んだ。引き寄せられるままに逞しい光宗の胸に顔を埋(うず)める。
「な、なりませぬ」
一瞬の後、我に返った誠恵は王から離れようと抗っていた。しかし、抵抗が見せかけだけのものなのか、心からのものなのかは誠恵にすら判らなくなっていた。
我が身のことよりも、民草を第一に考え、兄の忘れ形見をひたすら守り抜こうとする光宗の姿に魅せられてしまいそうになる。
このまま自分が光宗に惹かれてゆけば、その先に待ち受けているものが何なのか。考えるだに、怖ろしいことであった。
「お言葉をお返しするようではございますが、この国の民は下々の者に至るまで、聖君と讃えられる殿下のお血筋に王統を継承して頂きたいと心より願っております」
誠恵の言葉に、光宗は首をゆるりと振る。
「民の声も大切ではあるが、王位継承については、予の心は既に定まっている。たとえ、これから何人の王子が予に生まれようが、予は兄上の子である世子に位を譲るつもりだ」
「ですが、殿下。畏れ多いことながら、先代さまの御世には、民たちからは上の方々をお恨みする声が絶えませんでした。なのに、殿下が御位におつきになられてからというもの、民心は安定し、都は活気に溢れております。それほど徳のある殿下を民は皆、一途にお慕いしているのです」
出すぎた言葉である。一介の女官が口にして良い科白ではない。思慮深いといわれる光宗でも、これは怒るだろうと覚悟しての発言だった。
どうもこの男といると、自分が暗殺者であることを忘れてしまいそうになる。誠恵は本来の自分の使命を忘れ、光宗に惹かれそうになる自分が怖かった。
「そなたは予を買い被り過ぎている」
王の手が伸び、誠恵の細い手首を掴んだ。引き寄せられるままに逞しい光宗の胸に顔を埋(うず)める。
「な、なりませぬ」
一瞬の後、我に返った誠恵は王から離れようと抗っていた。しかし、抵抗が見せかけだけのものなのか、心からのものなのかは誠恵にすら判らなくなっていた。
我が身のことよりも、民草を第一に考え、兄の忘れ形見をひたすら守り抜こうとする光宗の姿に魅せられてしまいそうになる。
このまま自分が光宗に惹かれてゆけば、その先に待ち受けているものが何なのか。考えるだに、怖ろしいことであった。