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闇に咲く花~王を愛した少年~

第2章 揺れる心

噂は噂だ。伯父上は常に私の心を理解して下されている。早くに父を喪った予には我が父同然の方なのだ。その伯父上が予の心を無視した噂を流すはずがない」
「さりながら、私ども下級女官の間でもその噂は流れております。そのお陰で、私は仲の良かった友達からも今は無視され、一人ぼっちなのです」
 この話は、あながち嘘というわけではない。誠恵は朋輩の厭がる仕事―例えば洗濯―なども率先して引き受け、できるだけ周囲には〝良い娘〟であるよう印象づけていた。その甲斐あって、直属の上司である趙尚宮(チヨンサングン)からも
―張緑花は働き者で機転も利く上に、思いやりもある優しい娘だ。
 と、可愛がられている。
 趙尚宮は年の頃は五十近く、後宮に四十年以上もいる大ベテランだ。謹厳なことでも有名で、趙尚宮の名を聞いただけで震え上がる若い女官も多い中、誠恵はすぐに気難しいこの趙尚宮のお気に入り女官となった。
 仲間が多いほど、情報も入手しやすくなるというものだ。誠恵はそれを見越して、友達を同じような年頃の若い女官たちの中に大勢作るよう心がけてきた。しかし、皮肉なことに、光宗が入宮後まもない見習い女官張緑花を寵愛している―との噂がひろまってからというもの、親しくしていた友達は潮が引くように遠ざかった。
 休憩時間に輪になって談笑している彼女たちに誠恵が話しかけようとしても、意味ありげな視線を交わし合い、蜘蛛の子を散らしたようにいなくなってしまう。
 十歳で実の親に遊廓に売り飛ばされて以来、誠恵は常に孤独であった。今更、友達など欲しいとも思わないけれど、これはやはりこたえた。自分は〝女〟ではないから、女同士の嫉妬というものを完全に理解することはできない。が、朋輩女官たちが自分に向ける冷ややかな視線がまさにその〝嫉妬〟であることくらいは判った。
 彼女たちは、いきなり現れた新米が国王殿下の寵愛を得たことを妬んでいるのだ。
 やはり、自分はどこに行っても、一人ぼっちになる運命なのだろうと、半ば自嘲気味に今の状況を受け止めていた。
 心から受け入れて貰えなくても良いから、せめて無視だけはしないで欲しい。そんなことを考えていると、つい、ほろりと涙がこぼれ落ちた。

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