
闇に咲く花~王を愛した少年~
第3章 陰謀
誠恵は改めて背後を振り返った。大丈夫、尚薬が戻ってくるまでには、まだ十分時間がある。湯気を上げる土瓶に近づいた途端、周囲の温度が一挙に下がったような気がした。
緊張のあまり震える手で布を取り、懐に手を差し入れ、小さな紙包みを取り出す。
包みを開こうとしても、指がもつれて上手く動かない。まるで、自分の意思に反するかのように手脚が言うことをきかない。
それでも、震える手を持て余しながらも、包みを解き、中の粉薬を土瓶にさっと流し入れた。
ホウと、思わず深い吐息を吐く。これは月華楼の女将から持たされた薬だった。いずれ、時が来れば、この粉薬を王の飲食物の中に混ぜるのだと言いつけられていた。
小さな薬包の中身が何であるかを知らされてはいないが、毒であるのは明らかだ。王の召し上がる食事はすべて毒味が済んだ上で御前に運ばれる。常識で考えれば、王の口にするものに毒を混入させるのは不可能ではあるが、ひと口に毒薬と言っても、実に様々な種類があるのだ。
いつか聞いた話だが、毒薬の中には、すぐに効果を発揮せず徐々に体内に入り込み身体を蝕んで、やがては死に至らしめるという巧妙、かつ怖ろしい薬まであるそうな。香月が自分に持たせた毒薬も大方はその類の薬で、毒味の段階で毒だと容易には知れないものではないか。誠恵はそう見当をつけていた。
この煎薬を光宗はいつものように疑いもせず服用するに相違ない。今夜か、明日の朝か、いつになるのかは判らないけれど、この薬はほぼ間違いなく王の生命を奪う。
愛する男を自分はこの手で殺すのだ。
この手で―。
誠恵は両手のひらを眼の前にかざした。一瞬、その白い手がどす黒い血にまみれているような錯覚にとらわれ。
誠恵は小さな叫び声を上げた。
瞼に、血を吐きながら倒れる光宗の姿がありありと浮かぶ。この手を濡らすのは、他ならぬ愛しい男の吐いた血だ。
手が、戦慄いた。七月の暑い盛りに寒いはずもないのに、まるで瘧にかかったかのように両手がふるふると震える。
その時。
「そなた、このような場所で何をしている?」
誠恵はハッと我に返った。
「柳内(リユウネ)官(ガン)」
誠恵は、できるだけ笑顔が不自然に見えないように細心の注意を払った。
緊張のあまり震える手で布を取り、懐に手を差し入れ、小さな紙包みを取り出す。
包みを開こうとしても、指がもつれて上手く動かない。まるで、自分の意思に反するかのように手脚が言うことをきかない。
それでも、震える手を持て余しながらも、包みを解き、中の粉薬を土瓶にさっと流し入れた。
ホウと、思わず深い吐息を吐く。これは月華楼の女将から持たされた薬だった。いずれ、時が来れば、この粉薬を王の飲食物の中に混ぜるのだと言いつけられていた。
小さな薬包の中身が何であるかを知らされてはいないが、毒であるのは明らかだ。王の召し上がる食事はすべて毒味が済んだ上で御前に運ばれる。常識で考えれば、王の口にするものに毒を混入させるのは不可能ではあるが、ひと口に毒薬と言っても、実に様々な種類があるのだ。
いつか聞いた話だが、毒薬の中には、すぐに効果を発揮せず徐々に体内に入り込み身体を蝕んで、やがては死に至らしめるという巧妙、かつ怖ろしい薬まであるそうな。香月が自分に持たせた毒薬も大方はその類の薬で、毒味の段階で毒だと容易には知れないものではないか。誠恵はそう見当をつけていた。
この煎薬を光宗はいつものように疑いもせず服用するに相違ない。今夜か、明日の朝か、いつになるのかは判らないけれど、この薬はほぼ間違いなく王の生命を奪う。
愛する男を自分はこの手で殺すのだ。
この手で―。
誠恵は両手のひらを眼の前にかざした。一瞬、その白い手がどす黒い血にまみれているような錯覚にとらわれ。
誠恵は小さな叫び声を上げた。
瞼に、血を吐きながら倒れる光宗の姿がありありと浮かぶ。この手を濡らすのは、他ならぬ愛しい男の吐いた血だ。
手が、戦慄いた。七月の暑い盛りに寒いはずもないのに、まるで瘧にかかったかのように両手がふるふると震える。
その時。
「そなた、このような場所で何をしている?」
誠恵はハッと我に返った。
「柳内(リユウネ)官(ガン)」
誠恵は、できるだけ笑顔が不自然に見えないように細心の注意を払った。
