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闇に咲く花~王を愛した少年~

第3章 陰謀

 彼は、大殿内官として常に光宗に近侍している。しかも懐刀と目されている左議政にすら相談できないようなことでも、王は彼に打ち明けた。恐らくは年が近いこともあり、主従というよりは友達感覚で相談を持ちかけられているのだろう。ゆえに、若い王がいかほどあの女官に心奪われているか、柳内官は知らぬわけではない。
 国王自らが正式な側室としたがっているのに、肝心の張女官の方が辞退しているらしい。
 公に側室と認められれば、位階も賜るし、独立した殿舎を与えられる。一女官―しかも下級女官でいるよりもはるかに待遇も良くなることは判っているはずなのに、何故、張女官がそれを拒むのかも謎に思える。
 張女官に完全に惑乱している光宗などは、それが恥じらいと遠慮と受け止め、かえって寵愛に甘えることない慎ましやかな女だといっそう好ましく思っているようだ。
 彼は光宗の伯父である左議政が好きではない。あの取り澄ました何を考えているか判らないような君子然とした態度が嫌なのだ。人好きがするという点では、領議政孫尚善の方がよほどマシだ。
 とはいえ、孫尚善は世子の外祖父であり、彼が生涯の忠誠を誓う光宗とは真っ向から敵対する立場にある。あれが敵でなければ、領議政はたいした男だと広言しても良い。懐が広く、男気がある。策略家で、とことん冷酷になれる面も持っているが、そんなことは朝廷で幾度もの政変をかいくぐり生き抜いてきた廷臣であれば、当たり前のことだ。
 それはともかく、左議政もまた、張女官の存在に関しては危機感を抱いているらしい。大殿をしきりに訪れて拝謁を願っては、張女官を遠ざけるように進言している。左議政はいけ好かない男だが、この点に至っては全く柳内官も同意見であった。あの女―張女官は光宗を脅かす存在となるだろう。
 が、目下のところ、あの女は至って大人しく、何をする動きもない。むしろ位階を与えると言い張る王に〝側室にはなりたくない〟と駄々をこねているという。それこそが柳内官が彼女をして女狐だと思わせる最大の要素なのだが、彼女を熱愛している光宗には相変わらず謙虚さという美点にしか映らないのだから、困ったものだ。

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