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闇に咲く花~王を愛した少年~

第3章 陰謀

 張女官が尻尾を出すようなことがあれば、それを捕まえ、理由として宮殿から追放―最悪の場合、生命を奪うこともできる。しかし、何も事を起こさない中は、排除する理由というか名分がない。左議政もそのため、張女官の存在を黙認しているのだ。
 もしかしたらと、柳内官は意気込む。この薬がその突破口になり得るかもしれない。彼は尊敬する尚薬を探すために、薬房を後にした。

 柳内官が大殿に戻った時、既に光宗は昼餉を終えていた。膳のものもすべて下げられており、王は一人で書見をしている最中だった。
 執務室に入ると、彼はまず深々と頭を下げた。
「国王(チユサン)殿下(チヨナー)」
「何だ、柳内官か。どうしたのだ、昼食のときにはいつも傍にいるそなたの姿が見えなかったが」
 光宗は顔を上げて、柳内官を見る。
「そのことで、お話がございます」
「判った。話してみよ」
 鷹揚に頷く王に、彼は一礼して近づいた。
「ところで、殿下は先ほど食後にいつもの薬はお飲みになりましたか?」
「いや、今日は薬は用意されていなかった。珍しいこともあるものだと思ったのだが」
 柳内官は声を潜めた。
「実はその件につきましては、私の方で尚薬さまに申し上げて煎薬をこちらへお持ちするのを止めて頂きました」
「今日に限って何故だ?」
 王は不思議そうに訊ねた。
 柳内官は、いっそう声を落とした。
「殿下、何者かが殿下のお飲みになるはずのお薬に毒を潜ませようと致しました」
「―!」
 流石に、滅多と物事に動じない王も顔色が変わった。
「つまり、それは誰かが予を毒殺しようと企んだと、そういうことだな」
 念を押すように言う王の顔は強ばっていた。
「畏れ多いことに、そのようでございます、殿下。丁度、私は、その者が薬房から慌てて出てゆくところを目撃致しました。恐らくは、その不届き者は、薬を煎ずる土瓶に毒を入れて逃げようとしていたものと思われます」
「何と、警護の厳しいこの宮殿でそのような忌まわしきことが起こるとは。嘆かわしい限りだ。して、その者は既に捕らえたのか?」

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