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闇に咲く花~王を愛した少年~

第3章 陰謀

「いいえ、捕らえる前に、まずは殿下にお話ししておいた方がよろしいかと思いまして」
 王は訝しげに眼を眇めた。
「さりながら、すぐに捕らえねば、既に逃亡しているやもしれぬぞ。そなたにしては手緩いのではないか、柳内官?」
「申し訳ございません」
「その者をすぐに捕らえられなかった理由でもあるのか?」
 流石は賢明な光宗だ。読みは早かった。
「はい、ご賢察のとおりにございます。実は、薬房から出てゆくのを見た者というのが張女官でございました」
 彼は、張女官に何をしているのかと問いただしたこと、対して張女官は趙尚宮の頭痛薬を探しにきたのだと応えたことなどをかいつまんで報告した。
「まさか、そのようなことがあるはずもない」
 光宗の顔が怒りに染まる。寵愛の女官が自分を毒殺しようとしたと指摘されたのだ、動揺せぬはずがなかった。
「そなたは、緑花が確かに毒を入れるところを見たのか?」
 鋭い眼で射貫くように見つめてくる王を、柳内官もまた静かに見つめた。
「いいえ、毒を混入するところそのものを見たわけではございません。しかしながら、殿下、張女官は私が薬房に入ってきた時、明らかに尋常でなく狼狽えておりました。彼女がその前、つまり私に出くわす直前に毒を潜ませたと考えるのは、ごく自然な推理です」
「馬鹿な、たわ言を申すのもたいがいに致せ。緑花の存在は公にはしておらぬが、あれが予にとっては特別な女だとこの宮殿で知らぬ者はおるまい。予に最も近いそなたがそのことを知らぬはずはないのに、何故、根拠のない罪で予の大切な女を貶めようとする? 大体、そなたは毒薬だと言い切るが、その薬に毒が仕込まれているかどうか、実際に確かめたのか?」
 光宗の語気はその怒りのほどを物語るかのように鋭い。

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