
闇に咲く花~王を愛した少年~
第3章 陰謀
「そんな、真にございますか?」
両手で頬を押さえ、更に紅くなっているところがまた、何とも愛らしい。
「緑花、予が悪かった。たとえ一瞬でも、そなたを疑った予が悪かったのだ」
これほどまでに愛らしい暗殺者がいるものか。ここまで一途に自分を慕う女が他ならぬ自分を毒殺などできるはずがない。
「緑花」
名を呼んで、両手をひろげると、恥ずかしそうにしながらも近寄ってくる。華奢な身体を引き寄せ、抱えて膝に乗せると、光宗は緑花の顔を覗き込んだ。
「予は隠し事はできぬゆえ、単刀直入に話そう。今日の昼、そなたが薬房にいたのは、予の呑む煎薬に毒を入れるためだと申すものがおってな」
そんなことを言ったのが誰なのかは、聞かずとも判るだろう。緑花は聡明な娘だ。
「現実として、予の薬を煎じていた土瓶には毒が混入していた。そのことを予に報告してきた者が直接、味を調べて確かめたそうだ」
光宗の話に聞き入っていた緑花の大きな瞳が見る間に潤んだ。その眼に溢れた透明な雫が王の心を鋭く抉る。
「殿下は、私をお疑いなのでございますね?」
「疑っているわけではない。疑っておれば、予を殺そうとしたそなたに、この話をするはずがなかろう」
光宗は緑花の艶やかな黒髪を撫でた。
女官は皆、お仕着せの制服がある。一応、紅は入っているものの、薄鼠色の地味なチョゴリに、海老茶色のチマで、髪は後ろで一つに編んで、やはり紅い飾りで束ねる。動きやすい実用的なスタイルだ。
国王の妃―王妃や側室ともなれば、きらびやかなチマ・チョゴリを纏い、髪にも手にも綺羅綺羅しい飾りや宝玉をつける。
光宗は、よく華やかに装った緑花の姿を想像してみることがある。まだ年若い彼女には上品な桃色の衣裳が似合うに相違ない。チョゴリはいっそのこと少し落ち着いた鶯色で、チマは華やかな桃色というのは、どうだろう。
髪も成人した証として高々と結い上げ、惜しげもなく高価な簪で飾れば、いかほど見映えがするだろう。十五歳でこれほど美しいのだ、あと数年経てば、大輪の牡丹が一挙に花開くように艶やかでいて、可憐な美貌を持つ貴婦人に育つに相違ない。
光宗がしばし、愉しい空想に心躍らせていると、哀しげな声音がそれを遮った。
両手で頬を押さえ、更に紅くなっているところがまた、何とも愛らしい。
「緑花、予が悪かった。たとえ一瞬でも、そなたを疑った予が悪かったのだ」
これほどまでに愛らしい暗殺者がいるものか。ここまで一途に自分を慕う女が他ならぬ自分を毒殺などできるはずがない。
「緑花」
名を呼んで、両手をひろげると、恥ずかしそうにしながらも近寄ってくる。華奢な身体を引き寄せ、抱えて膝に乗せると、光宗は緑花の顔を覗き込んだ。
「予は隠し事はできぬゆえ、単刀直入に話そう。今日の昼、そなたが薬房にいたのは、予の呑む煎薬に毒を入れるためだと申すものがおってな」
そんなことを言ったのが誰なのかは、聞かずとも判るだろう。緑花は聡明な娘だ。
「現実として、予の薬を煎じていた土瓶には毒が混入していた。そのことを予に報告してきた者が直接、味を調べて確かめたそうだ」
光宗の話に聞き入っていた緑花の大きな瞳が見る間に潤んだ。その眼に溢れた透明な雫が王の心を鋭く抉る。
「殿下は、私をお疑いなのでございますね?」
「疑っているわけではない。疑っておれば、予を殺そうとしたそなたに、この話をするはずがなかろう」
光宗は緑花の艶やかな黒髪を撫でた。
女官は皆、お仕着せの制服がある。一応、紅は入っているものの、薄鼠色の地味なチョゴリに、海老茶色のチマで、髪は後ろで一つに編んで、やはり紅い飾りで束ねる。動きやすい実用的なスタイルだ。
国王の妃―王妃や側室ともなれば、きらびやかなチマ・チョゴリを纏い、髪にも手にも綺羅綺羅しい飾りや宝玉をつける。
光宗は、よく華やかに装った緑花の姿を想像してみることがある。まだ年若い彼女には上品な桃色の衣裳が似合うに相違ない。チョゴリはいっそのこと少し落ち着いた鶯色で、チマは華やかな桃色というのは、どうだろう。
髪も成人した証として高々と結い上げ、惜しげもなく高価な簪で飾れば、いかほど見映えがするだろう。十五歳でこれほど美しいのだ、あと数年経てば、大輪の牡丹が一挙に花開くように艶やかでいて、可憐な美貌を持つ貴婦人に育つに相違ない。
光宗がしばし、愉しい空想に心躍らせていると、哀しげな声音がそれを遮った。
